「剣鉾」は、神輿の先導として剣先を撓らせながら光り輝かせ、悪霊を払うことを目的としており、その多くは真鍮製である。これらは京都とその周辺に多く見られる地域色豊かな祭礼用具であり、祭礼では、地域によって用いられ方(差し方)に差異がある。 本研究は、5つに分類される差し方のうち、東山系と呼ばれる地域を中心に行ったものである。東山系の剣鋒は、「鉾差し」という特殊技能を持った人たちによって差されるものであるが、そのしなりについては、剣の物性によって大きく変わるといわれている。剣の性能とは、真鍮の配合比、剣の寸法、厚みなどである。 そこで本研究では、研究発表者らが行った寸法や厚み、真鍮の金属配合比などの測定結果をもとに、鉾差しの人たちから「差しやすい」といわれるものを同じ技法で製作し曲げ試験を行い、しなりのメカニズムを追及した。蛍光X線照射装置を用いて金属の配合比を分析し、箱書きや一部の剣に刻印として残っている情報と組み合わせ、時代性や地域性、鉾の差し方等の祭礼形態との関係の一部を明らかにした。 また、剣のしなり構造に着目し、実際の剣鋒と同様の剣を試料として作製し、各部位の強度試験を行った。職人が伝統的な方法で行う「たたき」と「なまし」の繰り返しによって、真鍮板の厚みと弾性が変化し、鉾差しの要求する剣の「しなり」が表現されると考えられた。 本研究成果は、文化財保存修復学会第35回大会において「金属配合比から見る「剣鉾」の製作技法の研究‐祭礼形態におよぼす影響について‐」第36回大会では「「剣鉾」の剣にみるしなり方の構造」の研究発表を行った。
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