種々のアレーンクロム錯体を基質として、ルテニウムおよびモリブデン触媒による閉環メタセシス反応が効率よく進行することを見出した。この反応をベースとして、アレーンクロム錯体の「面不斉」を触媒的に制御する2つの手法を開発した。一つは、ラセミ体の面不斉アレーンクロム錯体の速度論分割であり、非常に高いエナンチオ選択性が達成された。その結果、面不斉アレーンクロム錯体が90%を越える光学純度で得ることができた。ここで得られたブロモアレーンを有する面不斉錯体にホスフィノ基を導入することにより、新規面不斉ホスフィン配位子が得られた。この配位子は、ロジウム金属に対してホスフィン部位とオレフィン部位でキレート配位し、有機ホウ素求核剤を用いたロジウム触媒反応において、最高99%を越える非常に高いエナンチオ選択性を示すことを見出した。二つ目の方法は、プロキラルなアレーンクロム錯体を基質とする不斉非対称化であり、この手法により面不斉アレーンクロム錯体が最高99%を越える光学純度で得られることを見出した。 また、アレーンクロム錯体をテンプレートとして、プロキラルなホスフィンを非対称化し、リン原子の中心不斉を制御できることも見出した。この反応のエナンチオ選択性は最高88%eeであり改善の余地があるものの、リン原子上の中心不斉を触媒的に制御する非常にまれな反応例である。 不斉閉環メタセシスを利用する手法は、メタロセン類の面不斉にも適用可能である。従来より、フェロセン類の面不斉の制御には成功していたが、本研究により「ジルコノセンの面不斉」の制御も可能となった。ジルコノセン類はルイス酸性であり、種々のカルボメタル化反応への触媒として利用可能な有用な化合物である。
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