研究課題
我々は、有機/金属界面電子構造への光照射の影響に関する実験をおこなってきたが、その過程で光電子放出に関する興味深い現象を見出した。それは、4eV以下の光照射によって、有機/金属界面から光電子放出が起こるという現象である。具体的には、微量の銀を亜鉛フタロシアニン(ZnPc)薄膜上に堆積させた表面に3.4eV程度の光を照射することで、光電効果による電子放出が観測された。銀やZnPc自体の仕事関数は4eV以上であり、単純な光電効果の閾値を考えると3.4eVの光照射では光電効果による電子放出が見られないはずである。そこで、本研究ではこの異常な光電効果の原因を探るとともに、光照射による電子放出現象をフォトカソードとして利用できないかという応用上の観点から研究を行った。まず、光電子分光法を用いた実験で、ZnPc薄膜上にAgを蒸着することで電子構造にどのような変化が起こるかを観測した。その結果、ZnPc薄膜上にAgを蒸着することで表面がプラス、内部がマイナスとなるような真空準位のシフトが起こることが分かった。この結果、試料表面の見かけの仕事関数が低下することが示唆された。しかし、真空準位シフトだけでは試料表面の仕事関数が3.4eV以下にはならず、さらに複合的な要因があることが示唆された。そこで、原子間力顕微鏡や透過電子顕微鏡を用いてAgのZnPc薄膜上での構造を観測した結果、10nm以下の非常に細かい粒子状で存在しているときに電子放出が起きやすい傾向がわかった。Agの表面被覆率が多くなりすぎると電子放出能が低下した。これらのことは、銀の形状が電子放出に影響を及ぼしている可能性を示唆しており、Agの表面プラズモンが電子放出を支援しているのではないかと考えている。当初目指した期間内でのフォトカソードへの応用までには至らなかったが引き続き研究を進めており、萌芽研究として一定の成果が得られた。
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Applied Physics Letters
巻: (in press)
10.1063/1.4876956
電子情報通信学会技術研究報告
巻: 113 ページ: 51-67