葯を構成する細胞のうち花粉母細胞とタペート細胞は同一の起源を持つが、前者が減数分裂で花粉を生じるのに対し、後者は花粉に対する哺育細胞としての役割を持つ。タペート細胞自身はもちろん減数分裂をしないのだが、花粉母細胞の減数分裂に先行して二核化するという興味深い挙動を示す。本年度はこのタペート細胞の二核化について解析を進めた。シロイヌナズナの葯を培地とともにプレパラートに封入し、二光子励起顕微鏡を用いて、前年度よりもさらに高分解能のタイムラプス画像を取得した。蛍光標識ヒストンで核や染色体を可視化した植物を作出して観察した結果、二核化は減数分裂の直前に隣接するタペート細胞間で同調的に起こることがわかった。このことより有糸分裂を制御する何らかのシグナルが原形質連絡を通って移動している可能性が示唆された。続いて、核と微小管を異なる蛍光タンパク質で可視化して核分裂の過程を観察すると、一般の細胞では有糸分裂の前に形成され、細胞板の形成位置を規定する前期前微小管束がタペート細胞の核分裂の前には現れず、隔膜形成体も一時的に形成されるものの不完全なまま消失してしまう様子が観察された。細胞板は全く形成されなかった。一部のタペート細胞では、二核化の後にさらに染色体数の倍加が起きていた。細胞周期を負に制御する因子をタペート細胞で発現させると二核化が抑制され、このとき花粉の形成に異常が生じることが確認された。このことから、正常な花粉の発達にはタペート細胞の二核化が必要であることが明らかになった。
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