内皮細胞性血管弛緩因子(EDRF)として、一酸化窒素(NO)に続き硫化水素(H2S)が提案されている。しかし、H2Sの高い毒性から、その生理的意義については確定していない。申請者は、熱水域や湧水域に生息しH2Sを主たるエネルギー源とする化学合成共生動物では「H2Sが主たるEDRFとして働いている」という作業仮説をたて、有用な実験モデル動物となると考えた。 平成24年度は、シンカイヒバリガイのコントロール動物として、同じイガイ類のムラサキイガイを用い、1) 温度制御可能(10℃-25℃)な二枚貝MRI測定システムを構築した。2) 連続組織標本と対照させて、空間分解能35-100ミクロンの循環器系構造MRIマップを作成した。3) 海洋生物の心拍数、血流速度、心拍動のMRI測定法を世界で初めて確立した。平成25年度には、4) シンカイヒバリガイなどの深海生物固定標本を用い、その3次元構造データ収集を更に進めた。また、5) 鰓の水流計測法についても開発をおこなった。そして、5) シンカイヒバリガイとヘイトウシンカイヒバリガイを用い、硫化水素のパルス投与の循環器系への効果を確認した。その結果、ムラサキイガイよりも高い硫化水素耐性を確認することができた。 以上の結果を、ブルーアース2014シンポジウム(JAMSTEC主催、2014年2月、東京)や日本生理学会(鹿児島、2014年3月)などの学会で発表するとともに、Journal of Experimental Biologyに2本の論文が受理された。海洋生物の新しい研究方法として注目を集めており、海洋性軟体動物の研究者から様々な共同研究の提案があり、順次取り進めている。
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