研究課題
WNK(with-no-lysine)キナーゼは、遺伝性高血圧を呈する偽性低アルドステロン血症II型(PHAII)の原因遺伝子で、OSR1/SPAKキナーゼとSlc12a輸送体を下流にしたシグナル伝達系を形成している。この系は、腎臓におけるNaClの排泄と、血管のトーヌスを制御することにより、血圧の調節に関係していることが明らかになっている。このことからこの系を阻害する薬剤は全く新しい機序の降圧薬となる可能性があると考えられる。シグナル伝達のためにはWNKとOSR1/SPAKの結合が重要であると考えられることから、この結合を阻害する薬剤を化合物スクリーニングにより見いだすことを目的とした。蛍光相関分光法(FCS)を用いて、迅速かつ効率的に、結合阻害活性を持つ化合物のスクリーニング系を確立した。WNK由来のRFxV/Iモチーフを蛍光TAMRAで標識し、SPAK由来のCCTドメインをGST融合蛋白として精製し、両者を混合してKd=73nMという高親和性の結合反応の検出に成功した。この検出系を用いて17,000種類の化合物のスクリーニングを行ったところ、WNKとSPAKの結合を阻害する新規化合物を2種類同定した。これらの新規化合物はいずれも、培養細胞におけるWNKの活性化(SPAKとNCC輸送体のリン酸化)を容量依存的に阻害した。このように、今回発見された化合物は新規降圧薬開発のためのシード化合物となる可能性がある。また、今回用いたスクリーニング法は、2つの分子の結合阻害薬を探索するための一般的なスクリーニング法として応用できる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究目的としてWNK-OSR1/SPAKキナーゼ-Slc12a輸送体シグナル伝達系の阻害活性を持つ化合物をin vitro蛍光相関分光法を用いて同定すること、そのWNKキナーゼ阻害活性を培養細胞系にて検証し、あわせて細胞毒性の有無をを評価することを、目標にあげていた。研究実績の概要に記した通り、目的とする阻害活性を持つ化合物の同定に成功し、培養細胞系における検証にも成功した。
スクリーニングの結果得られた阻害活性のある薬物について、表面プラズモン共鳴法で、どちらの蛋白への結合による阻害活性かの確認を行う。動物(マウス)への投与実験を開始し、血圧や腎臓での塩分排泄に対する効果を評価する。PHAIIモデルマウス(WNK-OSR1/SPAKキナーゼ-Slc12a輸送体シグナル伝達系の過剰亢進した高血圧病態モデル)を使用して、シグナル伝達系の阻害により、高血圧の改善を含めた病態の改善がみられるかをin vitroで検証する。候補化合物の構造的な共通性を検討し、構造生物学的によりよい薬剤の可能性をシミュレーションし、誘導体展開による阻害活性と毒性の改善を目指す。より阻害活性の強い有望化合物についてはマウスへの投与試験を通じて治療効果を確認し、医薬品使用を目的として化合物の最適化を目指す。
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