研究課題/領域番号 |
24700109
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
石本 祐一 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 特任研究員 (50409786)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 話者交替 / 韻律 / コーパス |
研究概要 |
対話コーパスに必要とされる発話ラベルを付与するために、話者交替の起こりうる箇所の識別に有用な音響的特徴を明らかにすることを目的として研究を行っている。平成24年度は「日本語話し言葉コーパス」と「千葉大3人会話コーパス」の2種類の自発性の高い発話が収録されたコーパスを用い、発話の区切りを特徴づける音響的特徴の調査を行った。 発話の全体的な特徴を調べるために、日本語話し言葉コーパスの学会講演と模擬講演における独話の韻律変化について分析したところ、従来言われていたアクセント句のダウンステップ以外に発話の冒頭から末尾に向けてイントネーション句単位でも徐々に基本周波数が下降していること、発話中に強い統語境界がある場合に下降傾向のリセットが生じること、それにより長い発話であっても発話末だけにfinal loweringと呼ばれる基本周波数の著しい下降が生じることが観察された。 対話音声については、千葉大3人会話コーパスを基に話者交替が生じるときに発話末付近でどのような韻律変化が起きているのか、またその変化が聞き手の発話末認知にどのような影響を及ぼすのかを調べている。アクセント句単位で見ると最終アクセント句で基本周波数が最も低下して基底値に達すること、パワーは最終アクセント句で急激に低下すること、発話速度は発話末に向けて速くなっていくが最終アクセント句では逆に遅くなることが観察された。またこれらの特徴は発話末要素と呼ばれる助動詞「です・ます」や終助詞「ね・よ」といった統語要素の存在によって強く現れ、韻律変化が発話末要素の出現を特徴づけているという知見を得た。また、発話末要素を除去した音声による聴取実験を行い、発話末要素が出現する前にヒトはその発話に発話末要素が付属することを知覚できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画として挙げていたのは (1) 分析対象となる対話コーパスへの話者交替ラベルの付与 (2) 話者交替に関する音響的特徴の調査 (3) 話者交替に関する客観的基準の策定 の3点であるが、(1)はコーパスに元から付与されていた各種タグを基に統語的な節単位や長い発話単位(LUU)を用いて効率的に話者交替が可能な位置のラベルの付与を行うことができた。(2)の音響的特徴に関しても対話だけではなく独話も含めた幅広い自発発話の分析を行い、様々な知見を得ることができている。(3)の基準についてはまだ十分な検討はできていないが平成25年度も引き続き取り組む予定であり、全体的に予定通り達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は平成24年度に行った調査に加えて、以下の内容を行う予定である。 ・発話権をとらない聞き手発話の分析: 「発話権が移動しない聞き手発話」を考慮し、相槌を話者交替と認定することのないように、発話権をとらない聞き手発話の特徴を分析し、話者交替に関わる発話単位から相槌を排除できるような基準を設ける。 ・策定した基準を用いた非専門評定者による話者交替ラベルの付与: 分析に用いた以外の既存の対話コーパスに対して、策定した客観的基準に基づいて、会話分析の専門知識を持たない評定者によって話者交替に関する発話単位のラベリングを行う。 ・認定マニュアルの公開: 話者交替の発話単位の認定基準をマニュアルとしてまとめて公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入を予定していた計算機の価格が計画時よりも低下したことと、国際会議発表として予定していた渡航先がアメリカからマカオに変更になったため、次年度への研究費の繰り越しが発生した。 平成25年度は、本研究で策定した話者交替ラベルの付与を非専門評定者により行うため、大量のデータを処理・保管するための計算機と、作業実施者に支払う謝金のために研究費を使用する。計算機・記録装置・消耗品に約40万円、作業実施者に対する150時間の作業費用として謝金15万円を予定している。 また国内外で研究成果の発表を行うため、旅費・投稿費として約45万円を使用する予定である。
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