本研究は中国語南方方言の一変種である広東語と台湾語における存在否定動詞“無”の否定詞への文法化の様相を明らかにすることを目指した。 まずはじめに、否定詞“無”及びその肯定形の対応形式“有”の各方言における使用範囲の相違について、述語句の持つ<時間的限定性>に注目しながら説明することの有効性を提起した。また、広東語については、“無V/有V”構文はVそのものの非存在/存在に言及するだけで、Vの実現への推移や変化に言及することができないという意味的特徴を持つことを、アスペクト助詞“-到”の機能の分析を通して明らかにした。そのほか、“有V”構文について、各方言固有の談話論的特徴を探った。
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