研究課題/領域番号 |
24720179
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
秋田 喜美 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (20624208)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | オノマトペ / 擬音語・擬態語 / フレーム意味論 / 類像性 / 認知意味論 / 様態表現 / 日本語学習 / 大規模コーパス |
研究概要 |
本年度は、本研究テーマである「オノマトペのフレーム意味論」に対し、主に1)その理論的基盤の構築、2)ビデオデータの分析、3)オンライン事典の構想、4)分野間連携という4点からアプローチした。 1、まず、研究代表者がこれまでに得た知見を拡張し、豊富な世界知識までも考慮した「フレーム意味論」の観点からオノマトペ(擬音・擬態語)のコロケーション、意味、統語、談話機能が捉え直せることを提案した。オノマトペはとりわけ具体的な状況喚起を特徴とし、それゆえに特定の動詞と共起し易く(例:てくてく歩く)、会話上の効率的な文脈設定に貢献する。また、鳴き声の擬声語などは発生主が高度に特定される一方で(例:にゃー→猫)、物音の擬音語などは何らかの接触事象と結びついており(例:こつこつ→固い物どうしの接触)、この差がこれらの語の意味転移や動詞化可能性を左右していることを指摘した。 2、従来、言語学者の内省や書き言葉資料の分析が中心を占めてきたオノマトペ研究に、遂にビデオを用いた自然発話分析を本格的に導入した。これにより、話し言葉というオノマトペが観察され易い環境において、過去の提案を再検証することができるとともに、ジェスチャーやイントネーションを始めとするパラ言語との相関も射程に入れることができる。 3、以上の知見を日本語学習者のオノマトペ学習に役立てる試みとして、マルチメディアを利用したオノマトペ事典の構築を開始した。上の擬声語と擬音語の例のように、オノマトペは意味タイプにより背景情報の種類が異なる。即ち、擬声語が発生主の写真と鳴き声の音声だけで理解できる一方で、擬音語の理解には接触事象の動画が大きな手助けとなることが期待できる。 4、最後に、情報工学者や心理学者との大規模コーパスを利用したオノマトペの通時的・語用論的研究にもいくつかの成果を得た。 以上の成果は、多様な国内外の学会・講座において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究課題の初年度として、1)その基盤構築を中心に行った。加えて、複数の共同研究を通じて、2)オノマトペ研究の新たな展開を実演することができた。 1、まず、研究の基盤構築については、「オノマトペのフレーム意味論」の名の下、総論的な論文を執筆し、ハンガリーで行われた関連学会において講演した。また、その事例検証として、オノマトペの非慣習的動詞用法をコーパスとアンケートを用いて調査し、その理論的示唆を関連学会で発表した。 2、オノマトペ研究の新展開を例示する研究として、大規模コーパスを利用したオノマトペの通時的・語用論的研究を論文化した他、ビデオを用いたオノマトペの文法と機能の多角的分析を開始した。更に、日本語教育への貢献に向け、オノマトペのマルチメディア事典をウェブ上に公開する準備を始めた。この点は、本研究分野からの現実的社会貢献の一例としてとりわけ有意義と思われる。更に、過去数年に渡り行ってきた国内外の言語学者や心理学者との共同研究からも、いくつかの論文が実を結んだ。これにより、本テーマの学際性はより顕著なものとなりそうである。 また、複数の特別ワークショップや学生・市民講座において、本研究を分かり易い形で研究界・社会に発信することで、本研究課題全体としての意味合いをいくらか明確化できたように思われる。オノマトペというテーマの持つ「キャッチーさ」を活かしたこの種の活動が、閉鎖的になりがちな言語研究全体にとってもプラスに働くことを期待する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次のステップとしては、初年度に着手した1)ビデオデータ分析と、2)オノマトペのオンライン・マルチメディア事典の構築を中心に据える。また、これまでに進めてきているオノマトペのフレーム意味論に関する基礎的・発展的論文を完成させる。 1、ビデオデータ分析については、データを増やしつつ、分析項目も増やしていく。初年度は、オノマトペの文法的特性(例:形態、品詞)とパラ言語(例:ジェスチャー、イントネーション)との相関という基礎的観点のみに留まったが、今後は会話分析の知見を導入し、各オノマトペの談話内での機能にも着目していく。 2、日本語学習者のためのオンライン・マルチメディア・オノマトペ事典については、まず先行研究の提示する基本オノマトペ70語から始める。音声、動画、アニメーション、コロケーションデータといった多様な素材を作成し、それらを組み合わせることで、効率の良いオノマトペ学習が可能となる。尚、本オンライン事典の有効性については、3年目に検証予定である。 以上の成果は、国内外の学会やワークショップにおいて発表し、随時論文化していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費使用は、既に決定している3件の海外発表(カナダ、英国、スペイン)と複数の国内発表に大部分を充てることになるが、加えて、オンライン事典の編纂に向け、マルチメディアデータ(特に動画とアニメーション)の作成において、アシスタントに協力を依頼する可能性がある。また、同事典の実装においても技術的な補助が必要となる。残額でオノマトペやフレーム意味論に関する書籍や消耗品を購入する。
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