本研究の目的は、① 子会社に対する親会社やその取締役の責任につき、フランス法の議論を調査すること、②フランスの結合企業法制全体の中での①の位置づけを明らかにすること、③ ①②により日本に有益な外国の立法例の調査結果を提供し、提言を行うこと、である。 ②の一環として、(a)2014年にフランスの少数株主締出し制度の研究成果を公表した。産休・育休による研究活動中断後、①について、(b)2020年に後記(d)の中でフランスの事実上の取締役の研究成果を公表し、(c)2021年にフランスにおける親会社取締役による子会社管理行為の捕捉に係る研究成果を公表した。②について、(d)2020年にフランスのグループガバナンスの研究を公表し、その中での(b)や(c)の位置づけをみた。(e)2021年にフランスの子会社株主保護法制の研究を公表し、その中での(a)(b)(c)の位置づけをみた。③について、前記各研究でフランス法の特徴を明らかにし、フランス法は、伝統的にドイツ法を参考に結合企業法につき議論してきた日本に、ドイツとは異なる解決の選択肢を示唆することを示した。 最終年度の研究は(c)で、日本で関心の高い親会社取締役による子会社管理に対する規律の在り方につき比較法的視点を得ようとするものである。特に、親会社取締役の管理により子会社に損害が生じた場合に、行為と責任の所在を一致させるという観点、当該管理を法的に承認するという観点から展開される「権限委譲」という労働法で発展した技法に着目したフランスの議論を取り上げた。そこでは、共通のグループ政策実現のため、グループ構成会社取締役がグループ内の他社の運営に介入する必要が生じるところ、介入に法的正当性を持たせるために、権限委譲の活用が有用であると主張される。論文では、権限委譲の概要、判例法理の展開、学説の議論を検討し、フランスの議論の特徴を整理した。
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