本年度(最終年度)は、主に2つの活動を行い、いくつかの成果を得た。 まず、2014年12月6日に関西大学法学研究所で行われた総合研究会で「会社の損害に関する一考察」と題する報告を行った。具体的には、インサイダー取引などの会社をめぐる不祥事を素材に、コーポレート・レピュテーションの毀損を会社の損害として捉えられるかという問題を扱った。 この報告に関連して、同年10月に「インサイダー取引に対する未然防止体制の構築義務について」と題する論文を『会社法改正の潮流』という書籍の中で公表した。また、上記の報告を行う過程で、不公正ファイナンスと内部統制システムの構築をめぐる大阪地裁平成25年12月26日判決に接し、成果としてまとめ、間もなく公表する。これは、本研究の目的でもある、不公正ファイナンスが行われる制度上の問題点に関わるものと位置づけられる。 次に、2015年3月9日から16日まで、イギリス(ロンドン)へ出張に行き、同国の大英図書館にて、イギリス法およびEU法における市場濫用(market abuse)に関わる調査を行った。EU Securities and Financial Markets Regulationといった体系書や実務的な観点からのPractitioner’s Guide to the Law and Regulation of Market Abuseなどの文献に接することができた。これらの文献から得られる示唆は、不公正ファイナンスに対して金融商品取引法上の偽計(158条)を適用することの当否を検討する本研究にとって有益であった。 研究期間全体を通じて、本研究の目的として掲げた、①事案分析(判例研究)を行い、②偽計の適用の当否、③制度上の問題点にも踏み込むことができた(②③の成果についてはできるだけ早期にに公表する)と考えている。
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