研究課題/領域番号 |
24730119
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
堤 英敬 香川大学, 法学部, 教授 (20314908)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 候補者選定 / 政治的リクルートメント / 政党組織 / 公募 / 予備選 |
研究概要 |
本研究は、候補者選定過程の変容がもたらされた要因や、それが政党政治に与える影響を、数量的アプローチ、質的アプローチ双方から分析するものである。平成24年度は、今後、研究を進めていくために必要な準備作業を行った。 具体的には、第一に、2012年以前より行ってきた予備的な研究の成果として、2010年参院選における候補者選定過程の実態と、公募等の新たな候補者選定方法で選ばれた候補者の特徴を分析した「候補者選定過程の開放と政党組織」という論文を『選挙研究』に発表した。 第二に、1996年から2012年までの衆院選、1998年から2013年までの参院選(2013年については候補者選定が終了した選挙区のみ)における自民党および民主党の公募や予備選の実施状況を、主として全国紙の地方版や地方紙に基づいて調査した。ここでは、公募や予備選の有無に加え、公募の応募条件や候補者決定の方法、応募者数等の情報を収集したほか、公募等で選定された候補者の属性や経歴等についてもデータを収集した。また、こうして得られたデータを統合し、量的分析が可能なデータセットを作成した。なお、このデータの一部を用いて参院選における自民党の公募の分析を行い、その結果を、2013年3月に学習院大学で開催された"Workshop on Candidate Selection Methods in East Asia"で報告した。 第三に、質的分析を行っていくための準備作業として、自民党香川県連に対してインタビュー調査を行った。同県連は、2010年以降、すべての国政選挙の候補者を公募によって選定しているが、公募を導入した経緯や具体的な公募方法、さらには公募で選ばれた候補者の選挙運動等について質問を行った。これにより、本年度から本格的に選挙区を絞った事例研究を実施していく上で、重要な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては、まず公募等の開放的な候補者選定方法についてデータの収集を行い、量的な分析が可能なデータセットを作成することを予定していた。これについては、平成24年末に総選挙が実施されたことから、当初想定したより多くの作業が必要となったが、当該選挙区で公募が実施されたか否か、公募の応募条件、候補者決定方法、選定された候補者の属性などのデータの収集やその整理といった、今後の分析に必要な準備は概ね終えることができた。また、量的分析は平成25年度から取り組む予定であったが、平成24年度中に、このデータの一部を用いた分析の結果をワークショップで報告することができた。したがって、当初の計画をやや上回って研究を進めることができたと考えている。 他方で、事例研究に関しては、計画をやや修正することとした。当初の計画では、自民党県連が行った2010年参院選における候補者選定について質的な調査を行うこととしていたが、2012年総選挙ならびに2013年参院選に向けて、多数の選挙区で公募や党員投票が行われるようになったことに鑑み、これらの選挙における公募の実施状況も考慮して事例の選択を慎重に行うこととした。また、平成24年度中には対象事例についてインタビューを行ったり、資料収集を行うことを予定していたが、こうした計画の修正に伴い、平成24年度については予備的な調査として、自民党香川県連への調査を行うにとどめた。こうした計画の修正は、研究の質を高めるためのものではあるが、当初の計画と比較した場合の進捗状況は、必ずしも十分とはいえないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はまず、前年度に作成したデータセットを活用しながら、日本における公募の実施状況、公募が導入された背景ならびに公募が選挙過程や政党政治にもたらす影響について、包括的に検討した論文を執筆する。この論文は、共著者によって、本年度のアメリカ政治学会において報告される予定であり、英文ジャーナルへ投稿することを目指している。 その後は、公募をはじめとした新たな候補者選定が、政党執行部の集権性に与える影響についての分析を行う。公募や予備選といった開放的な候補者選定方法が用いられることの帰結としては、議員の自律性が高まって政党組織は分権的になるという見解と、党執行部と一般議員の選好が近づき、党執行部の意向が一般議員に受け入れられやすくなるため、党執行部の集権性が高まるとともに、(活動家を中心に構成される)党地方組織の影響力が低下するという議論がある。こうした課題について検討するために、公募に関するデータと東京大学・朝日新聞共同政治家調査や新聞社が国政選挙の候補者に対して行ったアンケート調査を組み合わせ、公募等によって選ばれた候補者の政策的立場や選挙運動、所属政党に対する意識が、それ以外の方法によって選ばれた候補者とどのように異なるのかを分析していく。平成25年度中には分析結果をまとめ、平成26年度前半に開催される学会で報告したいと考えている。 これに加えて、事例研究に本格的に取り組んでいく。具体的には、3つの自民党地方組織(県連)を対象として、公募等を導入した環境的、組織的背景や、選定された候補者の選挙運動について、関係者らに聞き取り調査を行ったり、資料収集とその分析を行う。なお、事例の選択にあたっては、まずは仮説を導出することを優先し、公募等の導入に積極的な県連と消極的な県連の双方を対象とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画では、平成24年度から幾つかの自民党県連を対象として、質的な調査を実施することとしていたが、計画を修正し、改めて事例を選択し直すこととした。当初の研究計画では、2010年参院選における候補者選定過程に基づいて事例を選択することとしていたが、2012年衆院選、2013年参院選に向けて多くの選挙区で公募等が実施されるようになっており、これらの選挙における公募の実施状況を勘案した上で調査対象とする県連を選択した方が、より多くの知見が得られると判断したためである。こうした研究計画の修正により、当初で予定していた調査のための旅費に相当する研究費は、本年度に持ち越すこととなった。 なお、県連を対象とした調査は、対象となった県連それぞれについて、3年間の研究期間中に3回実施することとしていたが、平成24年にはこの調査を実施しなかったため、平成25,26年の2年間に調査を終えなくてはならない。そのため、本年度に持ち越した研究費については、各県連について年1回としていた当初計画の調査回数を増やしたり、調査期間を延長することに当てたいと考えている。
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