研究課題/領域番号 |
24730163
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岸本 信 東京工業大学, 社会理工学研究科, 助教 (00610560)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ライセンス契約 / パテントプール / ライセンス料配分 / 安定性 |
研究概要 |
パテントプールによる特許権の一括ライセンスを分析する前段階として、特許権者の属性がライセンス契約に与える影響を分析した。特許権のライセンス契約に関するこれまでの研究では、特許権者として利潤最大化を目指す私的企業を対象として分析が行われ、多くの知見が蓄積されている。しかし、現実の特許権者には、国有研究機関など公的な特許権者も存在し、利潤最大化ではなく、社会厚生の最大化を目的として、特許権をライセンスしていると考えられる。そのような公的な特許権者を対象としてライセンス契約の分析を行い、その成果を査読付き国際学術誌である"Economics and Business Letters"から刊行した。その主な結果は、潜在的なライセンシーである私的企業が2社存在する場合、より生産費用の低い効率的な企業とのみライセンス契約を結ぶことが公的な特許権者にとって望ましい場合があることを示したことである。つまり、特許技術を全ての潜在的なライセンシーに普及させないほうが社会的に望ましい状況が存在することが明らかになった。 また、パテントプールにおける特許権者間のライセンス料配分を考える基礎とするため、一括ライセンスにより特許権者たちが得ることのできるライセンス料を明らかにする研究も開始した。協力ゲーム理論の解概念であるコアや結託耐性ナッシュ均衡を用いて、特許権者とライセンシー間で締結される、提携による信憑性のある逸脱を許さないようなライセンス契約を分析する。現在、モデル化が完了し、上記の解概念を用いて分析に着手している。これまでの分析で得られた結果は、特許権者とライセンシーの総利潤がライセンシー数に関して凹性(劣モジュラー性)を満たせば、提携による信憑性のある逸脱を許さないようなライセンス契約が存在しうることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載した通り、平成24年度は研究課題の目的を達成する上で基礎となる研究を行い、必要な結果を蓄積することが出来た。それらの研究の一つは、査読付き国際学術誌から刊行された。もう一つの研究についても、もう少し分析をする必要があるが、分析結果が導出され次第、論文としてまとめる予定である。これらの研究で得られた結果は、今後の研究を円滑に進めるためのものであり、特に平成25年度に研究する予定の「パテントプールにおける特許権者間のライセンス料配分の安定性」を分析する上で、大きな役割を果たすものであると考えている。 また、研究を効率的に進めるために、パテントプールや分析方法として用いている協力ゲーム理論の最新の研究動向を知ることが重要であるので、GAMES 2012: Fourth World Congress of the Game Theory Societyや日本経済学会2012年秋季大会などの関連学会に参加する予定を立てていた。後述するように、一部の学会には参加できなかったが、参加予定であった学会にはおおむね出席し、研究成果の報告や情報収集を行った。さらに、それら関連学会の参加者と研究課題へのアプローチや今後の方向性について議論を行い、研究課題の目的を達成する上で有益な多くの知見も得ることができた。 それゆえ、平成24年度に予定していた計画をおおむね達成でき、現在までの研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成24年度に行った研究をもとにして、特許権者間の様々なライセンス料配分方法を考慮して、パテントプールの安定性を研究する。この研究を完成させるために、モデル化及び、分析を主に行う。この研究と並行して、パテントプールに関する最新の研究やその結果を調査するために、関連する論文や書籍の精読を行う。また、研究手法として用いるゲーム理論についても、先行研究や関連書籍を精読することにより、モデル化や分析に必要な知識を習得し、この研究が円滑に進行するようにする。 さらに、パテントプールやゲーム理論に関連する学会(日本経済学会や日本オペレーションズ・リサーチ学会等)や研究会(法と経済学ワークショップ(一橋大学)など)に参加し、情報収集を行うとともに、本研究の成果が導出され次第、発表を行う予定である。また、それら学会や研究会に参加している研究者たちとも議論を重ね、そこで得られた知見を研究に反映させることにより、より効率的に研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた理由は、参加を予定していた学会に参加できなかったためである。平成24年度は、第18回ディセントラライゼイション・カンファレンス(関西大学)と日本オペレーションズ・リサーチ学会(ウインクあいち)に参加し、情報収集を行う予定であったが、勤務先での仕事の都合上、参加することが出来なくなってしまった。 今後の研究費の使用計画については、平成25年度及び、平成26年度に請求した研究費は、研究計画で示した通り、その年度中に使用する予定である。また、平成24年度に使用できなかった研究費については、平成24年度の使用計画の通り、旅費として平成25年度の予算では参加が困難であった学会や研究会に参加し、情報収集や研究報告をするために、平成25年度中に使用する予定である。
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