本研究の目的は,形式および効果という観点から,多数存在している対人コミュニケーションに関するトレーニングや体験型課題を整理することであった。特に研究を進めていくなかで,効果測定方法に関する多くの課題が浮き彫りになったため,本研究ではそれらについて基礎的な実験などに基づき検討を行った。まず,平成27年度の主な研究成果は次の通りである。 1.非言語情報に関する知識と記号化スキルの自己評定が非言語行動の表出に及ぼす効果を検討したところ,記号化に関しては従来の自己評定尺度によるスキルの測定も効果測定の手法として利用可能であることが示された。 2.トレーニング効果に対する妨害・促進要因についての検討:トレーニングを実施し,参加者への半構造化面接などに基づき,トレーニング効果を妨害する要因および促進する要因を探索的に検討した。トレーニング効果を左右する要因として,トレーニング実施者,トレーニング参加者,トレーニング内容,トレーニング環境,参加者を取り巻く人間関係といった要因が存在することが示された。ただし,トレーニング回数やトレーニングに対して参加者が抱く評価によっても,効果を左右する要因は異なることが示唆された。 研究期間全体を通じた成果は次の通りである。対人コミュニケーションの解読スキルに関してはスキルの自己評定を効果測定として使用することは不適切であり,記号化スキルに関しては自己評定尺度による測定も利用可能である。したがって,効果測定結果が公開されている既存のトレーニングについて,これらの観点からトレーニングの効果性を再判断する必要がある。また,トレーニング効果を左右する要因の検討結果を参考に,実施したい回数や参加者構成などにあわせて,適切なトレーニングを選択することが可能となる。
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