研究課題/領域番号 |
24740252
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 智史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40587466)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / 分子性固体 / 熱測定 / 強相関 / 磁性 |
研究概要 |
本研究の目的は、X[Pd(dmit)2]2系における量子スピン液体-隣接相境界の挙動を追求することを目的としている。本年度は、主として、反強磁性-量子スピン液体相境界近傍の挙動を追求するために、反強磁性塩と量子スピン液体塩の混晶塩の系統的熱容量測定を行った。装置の整備も併せて行い系統的測定に求められる測定精度の向上を達成した。量子スピン液体におけるギャップレスな励起に起因する熱容量の温度に比例する項の係数γの絶対値は、量子スピン液体の励起構造を追跡する上で重要である。量子スピン液体相とみられる混晶比では、γの値は混晶比率の変化に伴いなだらかに変化するが、相境界近傍では急激に減少することを見出した。γの急激な減少は反強磁性秩序の形成によりスピン状態にギャップが開いたことに対応すると考えられ、量子スピン液体におけるギャップレスな励起が不純物効果等ではなく本質的なものであることが明らかとなった。同時に、反強磁性-量子スピン液体相境界に該当する混晶比を特定することに成功した。 相境界に該当する物質の熱容量を希釈冷凍機領域まで測定した結果、ギャップレスな励起はおおよそ消失するが、低温では電子熱容量が異常な増大を示すことがわかった。この挙動は、一部の重い電子系の金属-反強磁性相境界にみられる非フェルミ液体挙動に該当する可能性があり、量子臨界現象の一種とみられる。Mott絶縁体における非フェルミ液体挙動はこれまでに観測された例はなく、概念的にも全く新しい振る舞いである。 本年度はこれらの得られた結果を主として国際会議において発表した。本年度は国際会議における口頭・ポスター発表1件ずつに加え、アメリカ合衆国カリフォルニア大学にて行われたKITP Conferenceにおいて招待講演を1件行った。また、これらの結果を現在学術誌に投稿し、現在査読過程にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、反強磁性-量子スピン液体、電荷秩序-量子スピン液体、反強磁性-電荷秩序の3種類の混晶塩を系統的に測定することにより、量子スピン液体-隣接相境界近傍の挙動を追跡することにある。また、量子スピン液体に存在する低エネルギー励起と三角格子の異方性の関係についても注目している。大きな課題は、量子臨界現象など相境界近傍の狭い領域でのみ観測されうる現象を追求するため、現状で情報が不足しており解明されていない、反強磁性-量子スピン液体境界に該当する混晶比を特定することにある。 本年度に行った系統的測定では、熱容量におけるγの急激な現象を観測することに成功し、混晶比の誤差3%程度で相境界を特定することに成功した。また、相境界近傍の混晶塩の希釈冷凍機温度領域での熱容量測定を行い、量子臨界現象の兆候を発見することにも成功した。よって、本研究の目的のおおよそ半分程度を達成することができたといえる。よって、予定よりも順調に研究は進捗しているといえる。また、電荷秩序-量子スピン液体の物質においても、重大な問題は今のところ発見されておらず、今後も順調に研究を推進していくことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するためには、反強磁性-量子スピン液体、電荷秩序-量子スピン液体、反強磁性-電荷秩序のそれぞれの混晶塩の熱容量を系統的に測定する必要がある。研究実績で報告した反強磁性-量子スピン液体の混晶塩に関しては、若干研究計画よりも早い研究の進行を達成でき、また、結果も予測に反しない興味深い挙動が得られた。よって、基本的には、研究申請時の研究計画で大きな支障はないと考えられ、次年度以降には残る電荷秩序-量子スピン液体,反強磁性-電荷秩序の混晶塩の熱容量を系統的に測定していく予定である。 一方、本年度に行った、電荷秩序-量子スピンの混晶塩の測定では、相境界とみられる混晶比よりも量子スピン液体物質の比が高い比率において混晶比の増加に伴う挙動が変化した。この現象は、電荷秩序が1次の相転移であるために2次の相転移である反強磁性転移を持つ物質との混晶塩とは異なった挙動を示しているためであると考えられる。混晶化による電子状態のコントロール以外の影響が出ることは本質的な挙動を追跡するためには悪影響もあるが、反強磁性-量子スピン液体における量子臨界現象を考慮するためには、両者の挙動を比較することも重要である。よって、研究の進捗状況が良好なことを踏まえ、混晶化の影響を詳細に考慮するため、高温領域における精密測定の整備を進め、量子スピン液体とは直接関係がない高温領域における電荷秩序挙動に関しての系統的研究も併せて行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究推進方策で述べたように、高温測定のための精密熱容量測定装置が必要である。このため、測定セルの作成や他の測定と並行して測定を行えるように測定装置の整備が必要となる(温度計、電子回路、工作費、検出器との接続用GPIBカード:300千円)。また、現在使用している測定装置は多数回使用による配線等に劣化がみられ測定精度の低下が懸念される。このため、配線の交換や電子回路の見直しなどを行う予定である(配線材等:200千円)を行う。これらの装置作成・整備により、系統的な熱容量を継続的に行うこと環境を整え、引き続き相境界近傍の熱容量測定を展開する。また、国内・国際会議に参加し、研究結果の発表を行うことも予定している(国内旅費・学会参加費250千円)。学術誌上での研究発表については現在査読中であるが、これも可能な限り研究発表を行っていく。
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