洪水発生時における住民の緊急避難の促進方策について,先進国と開発途上国との国際比較研究(日本とタイ)を行った.その結果,タイでは未だ「盗難リスクへの社会不安」といった心理的要因が根強く存在し,このことが住民の事前避難行動を躊躇させ,むしろ積極的な自宅滞在行動が促進される構造となっていることが示唆された.日本の調査結果にてこのような顕著な傾向を見出すことは困難であった.これらを捉えるならば,「避難しない」という行動形態の原因を単に「危機意識の低さ」に求めるような従来研究の主流的考え方は,少なくとも発展途上国を対象とした議論においてはもはや短絡的であると言わざるを得ないと考えられる.
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