研究課題/領域番号 |
24760421
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
朝香 智仁 日本大学, 生産工学部, 助教 (60514164)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | JERS-1 / SAR / ALOS / PALSAR / L-band / 海岸線 / 後方散乱強度 / 入射角 |
研究概要 |
平成24年度のテーマは「衛星搭載型合成開口レーダーによる海岸浸食域の推定手法の確立」であり,実施計画として「(1)衛星画像の前処理」と「(2)衛星画像の解析と検証」に細分していた。 「(1)衛星画像の前処理」では,合成開口レーダーの画像再生および地理座標系への投影を目的とした画像処理として,地球資源衛星「ふよう1号」(JERS-1)が観測した1992年から1998年までの合成開口レーダー(SAR)データと光学センサ(VNIR)データ,および陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)が観測した2006年から2011年までの合成開口レーダー(PALSAR)データと光学センサ(AVNIR-2)データの,合計61シーンを処理した.なお,今年度はレーダーの入射方向と砂浜海岸の位置との関係性について考察するため,研究対象地域として東西南北方向に向いている4箇所(鳥取県,千葉県,静岡県,鹿児島県)の砂浜海岸,および衛星の軌道と入射角がほぼ近似しているL-bandの合成開口レーダーに限定している。 「(2)衛星画像の解析と検証」では,前処理をした衛星画像から,海岸線を抽出する手法の確立を目的として,まず,降雨時に観測された合成開口レーダー画像と無降雨時に観測された合成開口レーダー画像のどちらが海岸線を判読しやすいか,観測日の近い光学センサの画像と比較することで考察した。結果として砂浜の物性とレーダーの後方散乱強度に起因する特性と,レーダーの入射方向依存性に起因する特性について明らかにすることができた。このことは,今後の研究遂行に関して非常に重要な研究結果であった。また,海岸線が判読できた合成開口レーダー画像から,海岸線のみを自動的に抽出するためのアルゴリズムの開発に成功し,海岸線のみをトレースすることが可能になった。なお,上記に関する成果は,2編の論文としてまとめ,国際会議に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,東西南北方向に向いている4箇所の砂浜海岸(鳥取県/鳥取砂丘,千葉県/九十九里浜,静岡県/遠州灘海岸,鹿児島/吹上浜)を研究対象地として,L-bandの合成開口レーダー画像から海岸線を抽出するためのデータ選定に関する特性について考察することを目的として研究を進めた。 結果として降雨時に観測された合成開口レーダー画像のほうが海岸線を判読しやすいことが判明した。ただし,東西南北方向に向いている4箇所の砂浜海岸のうち,合成開口レーダーが入射してくる方向(東から西に向かってビームが照射される)にほぼ直角に位置する2箇所(千葉県/九十九里浜,鹿児島県/吹上浜)以外は,海岸線を判読することができなかった。理論的には,レーダーの後方散乱強度が土壌水分量によって上昇したためによる事象と,レーダーの入射方向依存性に起因する事象と考察できる。 また,海岸線が判読できた合成開口レーダー画像から,海岸線のみを自動的に抽出する画像処理アルゴリズムの開発に着手し,結果として海岸線のみをトレースするプログラムが完成した。本研究で開発したプログラムはC言語でコーディングしたオリジナルのものであり,今後も研究の進捗に伴って修正および機能の拡張が可能である。 よって,上述の理由により,平成24年度に設定した研究の目的は達成しているが,当初に予定していた8箇所の砂浜海岸を研究対象地として解析することが達成できなかったため,達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。なお,合成開口レーダーをL-bandのみに限定している理由は,日本がこれまで継続的に運用してきた衛星搭載型合成開口レーダーがL-bandであるため,その応用研究の発展は意義あるものと考えられるためである。さらに,L-bandは干渉処理によって長期的な地盤変動を評価しやすいという利点があるため,本研究の遂行には適している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,当初の予定で研究対象地域としていた北海道/十勝海岸,北海道/鵡川海岸,新潟県/糸魚川海岸,鳥取県/鳥取砂丘海岸,千葉県/九十九里海岸,静岡県/遠州灘海岸,鹿児島県/神之川海岸,宮崎県/日向灘海岸の8箇所のうち3箇所の解析が終了しているため,平成25年度はまず残り5箇所について解析を行い,これまでの知見を深める。 次に,当初から予定していた平成25年度のテーマである「衛星搭載型合成開口レーダーによる海岸浸食域の時系列変化の評価:日本の海岸線への適用」に取りかかる。実施計画としては,「(1)解析結果の時系列化方法」と「(2)時系列変化の評価と検証」に細分できる。 「(1)解析結果の時系列化方法」では,海岸線の変化量を時系列で表現する手法の確立を目的とし,多時期の合成開口レーダーの解析結果から時系列変化を視覚的に評価する手法を考案する. 「(2)時系列変化の評価と検証」では,平成24年度に開発した画像処理アルゴリズムによって抽出した海岸線と国土地理院の空中写真画像データを比較し,詳細部の精度を検証する.さらに,研究対象地の自治体が実施している汀線測量成果が借用できた場合には,これも併用する。また,L-bandの合成開口レーダーを干渉処理して得られた地盤変動量を表す画像を作成し,海岸浸食の要因が地盤沈下にあるか考察できるようにする.最終的には長期変動と短期変動が重合している海岸浸食の要因について多面的な考察をし,L-bandの合成開口レーダーによって評価できる海岸浸食について総括する。なお,この過程で,海岸工学に関する豊富な研究実績を有する研究者に助言を求め,解析結果の正しい解釈が行えるように配慮し,研究発表また論文投稿を通じて総合的に研究成果の完成度を高める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,平成24年度に実施しなかった研究を含み,当初から予定していた平成25年度の研究について実施するために,研究費が必要である。ついては,(1)地球資源衛星「ふよう1号」(JERS-1)が観測した合成開口レーダー(SAR)データと光学センサ(VNIR)データの購入費,(2)陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)が観測した合成開口レーダー(PALSAR)データと光学センサ(AVNIR-2)データの購入費,(3)国土地理院の空中写真画像データ購入費,(4)調査および研究発表のための旅費,(5)謝金,(6)雑費,を研究費として使用し,平成25年度末までに本研究の目的が達成されるように,計画的に研究を遂行する。
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