本研究は非古典的Rac活性化分子であるDOCK180(DOCK1)及びDOCK5の機能とその時空間的制御機構を明らかにすることを目的にした。DOCK1及びDOCK5の遺伝子欠損マウスより初代線維芽細胞(MEF)を単離し解析を行った結果、以下の様な成果を得た。 成長因子によってチロシンキナーゼ受容体を刺激することで、細胞はDorsal ruffleとPeripheral ruffleという2つのラッフル膜を形成する。そのうち、Dorsal ruffle形成においてはDOCK1は必須な分子であるのに対し、DOCK5は関与していないことを見出した。アミノ酸比較解析の結果、DOCK1はDOCK5と違いC末側にpolybasic部位を持ち、その部位を介してイノシトールリン脂質のホスファチジン酸(PA)と結合することが分かった。また、チロシンキナーゼ受容体の下流で、PLDはPAを産生することでDorsal ruffle形成を促進することが分かった。以上より、細胞膜上でPAが産生されることによりDOCK1が細胞膜へと移行するDOCK1の時空間的制御機構がDorsalruffle形成に重要であることを明らかとした。 さらに、Dorsal ruffle形成と細胞浸潤過程とは共通の機構を持つことが示唆されていることから、DOCK1が細胞浸潤過程に影響を及ぼすかを検討した。その結果、DOCK1欠損MEFにおいてはマトリゲルへの浸潤能が顕著に低下することを見出した。また、DOCK1をノックダウンしたがん細胞を用いても同様の結果を得た。
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