研究課題
精子先体に存在するACRBP/sp32は、ブタ精子抽出液からトリプシン様セリンプロテアーゼのアクロシンの前駆体 (proACR) と共精製されたタンパク質である。その後の解析から、マウスでは選択的スプライシングによってACRBPはACRBP-WとACRBP-V5の2種類が発現していること、生体外でproACRと結合しその自発的活性化を促進することが示唆されてきた。しかしながら、ACRBPの生体内での実質的な生理機能は長年不明のままであった。この問題を解決するために、本研究ではACRBP欠損マウスを作製しその機能解析を試みた。作製したACRBP欠損のオスマウスの精巣重量および精子数に野生型との差はなかったが、妊孕率と体外受精率は大幅に低下していた。欠損マウスの精子先体は異常な形態であり、運動性も著しく低下していた。ACRBP欠損精巣内の球状精細胞を観察すると、先体顆粒の不凝集にともなう先体の変形がみられた。さらに、先体タンパク質の存在を比較したところ、ACRBP欠損マウスではproACRが成熟型アクロシン (ACR) に変換していることも判明した。マウスで発現する2種類のACRBPの機能差を明らかにするため、外来性のACRBP-WまたはACRBP-V5を発現するトランスジェニックマウス作製した。それらをACRBP欠損マウスを交配させることでACRBP-WとACRBP-V5のレスキューマウスを得た。ACRBP-WのレスキューマウスではproACRは未成熟の前駆体のままであったが、先体の形態は欠損マウスと同様に異常で妊孕率および体外受精率も野生型と比べ有意に低下していた。一方、ACRBP-V5レスキューマウスではproACRがACRへ変換していたが、先体の形態、妊孕率および体外受精率は野生型と同程度に回復していた。以上の結果から、精子形成過程でACRBP-WはproACRの自発的活性化の抑制、ACRBP-V5は先体顆粒の凝集に関与していることが強く示唆された。今後はACRBPを中心とした先体形成の分子機構の解明をさらに進めて行く予定である。
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