研究課題
近年、糖尿病に伴う骨折リスクの増加が問題となっており、糖尿病性骨粗鬆症の病態解明が急務となっている。平成24年度は、糖尿病の増悪因子として示唆されている線溶系阻害因子プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の糖尿病性骨粗鬆症の病態における役割について、1型糖尿病モデルマウスを用いて検討した。雌雄の野生型およびPAI-1欠損マウスに、ストレプトゾトシン(STZ、50mg/kg)を4日間連続で腹腔内投与し、糖尿病を誘発した。STZ投与により、雌雄のマウスともに、血漿PAI-1濃度が増加し、その増加は雌マウスで顕著であった。組織mRNAの検討では、雌でのみ肝でPAI-1発現が増加したが、骨、腎、肺ではPAI-1発現は変化しなかった。STZ投与による糖尿病誘発1カ月後のX線CT解析の結果、雌性PAI-1欠損マウスでは、野生型マウスで認められた骨密度と骨強度指数の減少が有意に抑制された。また、この骨保護効果は雄性PAI-1欠損マウスでは認められなかった。同様に、糖尿病によるRunx2やOsterixなどの骨分化関連遺伝子の脛骨における発現低下も、雌性PAI-1欠損マウスでのみ抑制が認められた。さらに、糖尿病による脂肪分化調節因子PPARγの脛骨における発現上昇は、雌性PAI-1欠損マウスで抑制された。また、マウス初代培養骨芽細胞を用いた生体外での検討において、活性型PAI-1のリコンビナント蛋白で24時間刺激することにより、雌性新生マウスから採取した初代培養骨芽細胞でのみ、骨分化関連遺伝子の発現が抑制された。これらの結果より、PAI-1の骨分化制御を介した糖尿病性骨粗鬆症の病態への関与が示唆され、その病態に性差が存在した。その機序として糖尿病により肝から誘導されたPAI-1が骨芽細胞分化を制御する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は1型糖尿病モデルマウスの骨の脆弱化におけるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)の役割を検討し、PAI-1が糖尿病性骨粗鬆症の病態に重要な役割を果たしていることを示すことができた。さらにPAI-1が骨芽細胞の分化および石灰化に対して抑制的に働くことをin vitroで示した。そして、PAI-1の糖尿病性骨粗鬆症における役割には性差がある可能性も見出すことができ、おおむね実験計画通りに結果を得られていると考えられる。
平成24年度において、雌マウスの1型糖尿病モデルにおける骨の脆弱化に対してPAI-1が重要な役割を果たしていることを示したが、その詳細な機序は明らかではない。そこで平成25年度は、その機序をマウス生体内および細胞レベルで明らかにしたい。具体的には、野生型マウスおよびPAI-1遺伝子欠損マウスにおける、糖尿病による骨髄間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化能に対する影響や、平成24年度に明らかにした初代培養骨芽細胞に対するPAI-1の反応性の性差の機序を明らかにしたい。また、2型糖尿病モデルの骨の脆弱化におけるPAI-1の役割を、PAI-1遺伝子欠損マウスを用いて検討する予定である。さらに、1型糖尿病モデルおよび2型糖尿病モデルにおける経口PAI-1阻害剤の効果についても同時に検討する予定である。
該当なし
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