平成24年度に、我々はPlasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)が雌の1型糖尿病モデルマウスにおける骨脆弱化に関与することを明らかにした。PAI-1は、Tumor necrosis factor-α(TNF-α)と同様に、2型糖尿病の端緒となる肥満病態で血中濃度が増加するアディポサイトカインであり、様々な代謝異常に関与することが知られている。そこで平成25年度は、肥満に伴う骨脆弱化の機序におけるPAI-1の関与について検討を行なった。10週齢の雌性の野生型およびPAI-1遺伝子欠損マウスに普通食(対照群)と高脂肪高ショ糖食(肥満群)を20週間与え、糖・脂質代謝および骨代謝に及ぼす影響を検討した。野生型マウスの肥満群では、耐糖能異常、インスリン抵抗性および高コレステロール血症が認められたが、PAI-1遺伝子欠損マウスではこれらの異常が改善された。脛骨における検討の結果、野生型マウスの肥満群において対照群と比較し、定量CTにより計測した海綿骨密度と骨強度指標および骨分化関連遺伝子(Osterixおよびアルカリフォスファターゼ(ALP))の発現量が減少したが、PAI-1遺伝子欠損によるこれらの骨代謝異常に対する影響は認められなかった。一方、野生型およびPAI-1遺伝子欠損マウスの肥満群では共に、血中TNF-α濃度の増加が認められた。さらに血中TNF-α濃度と脛骨の海綿骨密度、骨のOsterixおよびALP mRNAの発現量の間に有意な負の相関が認められた。これらの結果より、肥満に伴う骨脆弱化の機序に、PAI-1、インスリン抵抗性および高コレステロール血症ではなく、TNF-αが関与することが示唆された。そして、期間全体の研究結果より、1型糖尿病に伴う骨脆弱化と2型糖尿病の端緒となる肥満に伴う骨脆弱化の機序は異なる可能性が考えられた。
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