研究課題
若手研究(B)
プロスタノイドの産生に寄与する誘導型酵素群が、シスプラチンによって誘発される急性腎不全の病態に関与することが指摘されている。しかし、腎臓に高発現するプロスタノイド受容体の本病態形成における役割については、これまで検討されていないのが現状であった。我々は、8種類のプロスタノイド受容体(DP、EP1、EP2、EP3、EP4、FP、IP、TP)を個別に欠損したマウスを用いた本研究によって、プロスタグランジン(PG)E2受容体のひとつであるEP1がシスプラチン誘発急性腎不全の病態形成で増悪に働く可能性を見いだした。EP1欠損マウスでは野生型のマウスと比較して、シスプラチン投与後の生存率が著明に改善された。また、シスプラチン投与の72時間後における血清クレアチニンや血液尿素窒素の動態を指標とした腎機能障害の程度が、EP1欠損マウスでは野生型のマウスと比較して有意に軽減された。この結果は、摘出腎の切片標本を用いてEP1欠損マウスと野生型マウスの腎組織病変の変化を病理学的に解析した結果と相関していた。さらに、尿細管障害のマーカー分子のひとつであるkidney injury molecule-1 (Kim-1)の腎臓でのmRNA発現増加が、EP1欠損マウスでは野生型マウスに比べて著明に軽減されることを見出しており、本研究によってシスプラチン誘発急性腎不全の病態形成におけるPGE2-EP1系の重要性が示唆された。以上の研究成果は、第86回日本薬理学会年会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画通り、EP1欠損マウスおよび対照群に対してシスプラチン誘発急性腎不全モデルを用いた解析行うことで、急性腎不全の病態形成におけるPGE2-EP1系の役割を明らかにすることができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
本研究によってシスプラチン誘発急性腎不全の病態形成におけるPGE2-EP1系の重要性が示唆された。そこで今後は、PGE2-EP1系の標的となる急性腎障害関連分子群を同定し、それらの動態を解析する。また、尿細管細胞の初代培養系を用いて、in vitroのシスプラチン負荷による腎不全類似状態下におけるPGE2-EP1系の役割の詳細を解析する。さらに、急性腎不全モデルおよび尿細管細胞の初代培養系を用いたin vivoおよびin vitroの双方からの解析によって、EP1標的薬物の腎障害に対する改善効果についての検討をおこない、その薬物の急性腎不全治療薬としての有効性と作用メカニズムを検証したいと考えている。
該当なし
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