研究課題/領域番号 |
24790805
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研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
原山 武士 独立行政法人国立国際医療研究センター, 脂質シグナリングプロジェクト, 研究員 (50610218)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リン脂質 / ホスファチジルコリン / アシル基転移酵素 / 肺サーファクタント / 炎症 |
研究概要 |
これまでLPCATという酵素群の機能解析を中心として、主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸組成が正常であることの生物学的意義を調べている。これまでもPCの脂肪酸組成を質量分析計で解析していたが、さらに検出方法を工夫し、決められたターゲットのみではあるが詳細な脂肪酸組成決定と定量を可能にした。これにより、酵素学的なデータと脂質の解析の定量的な比較が可能になった。この方法論を用いてLPCAT1欠損マウスの様々な臓器でのPC脂肪酸組成の異常を検出できた。 LPCAT1、LPCAT2欠損マウス、ABCA3ヘテロ欠損マウスを用いて急性肺障害の感受性を調べたところ、LPCAT1欠損マウスは感受性が高まっていたが、LPCAT2欠損マウス、ABCA3ヘテロ欠損マウスは現在の所、有意な差が見られなかった。LPCAT3欠損マウスは正常に発生ができず、解析が不能であった。 LPCAT1欠損マウスを中心としてさらに解析を行い、炎症のごく初期に誘導される脂質メディエーターを見出し、合成酵素の阻害剤により、以降の炎症が軽減することを見出した。また、LPCAT1欠損マウスは肺サーファクタントの機能異常が肺傷害モデルの早い時期に見られ、これが以降の炎症や致死性につながっていることが示唆された。 これらの研究から、PCの脂肪酸組成を調節とされていた酵素群が実際にin vivoでそのような機能を持つことがわかった。さらに、酵素学的な活性とPCの解析から、どのような活性が最終的な脂肪酸組成を調節するかがわかり、今後の研究の基盤となる情報となった。また、肺サーファクタントの機能異常から、PCの脂肪酸組成が実際にこのリン脂質の物理学的特性を変化させうることがわかり、生物学的な重要性が明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺サーファクタントの主要なリン脂質であるPC及びホスファチジルグリセロール(PG)をターゲットとして研究を開始した。遺伝子欠損マウスの解析と各酵素を発現した培養細胞の解析から、PCの脂肪酸組成調節に関して多くの知見が得られた。 また、主にLPCAT1の様々なin vivo機能を明らかにできた。具体的にはサーファクタントPCの脂肪酸組成の調節を介して、これの物理学的な性質を正常にしていることがわかった。これの破綻により急性肺障害への感受性が著しく高まることがわかり、臨床的にも重要な知見であると思われた。 病態メカニズムの解析から今回見られたフェノタイプを最も良く説明するのは脂質メディエーターやサイトカインなどではなく、PCの物理学的性質そのものだと思われた。このことは、将来的には生体膜の物理的な研究につながると思われ、重要なステップであったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画ではPCとPGの解析を行う予定であったが、想定よりPCの物理学的性質の解析が重要であると考えられたため、PGの定量分析などは別のプロジェクトとして行う。今後は肺サーファクタントPCの表面張力に及ぼす影響をin vitro、in vivoの両面から解析する。 LPCAT1欠損が重篤な肺傷害に繋がることから、LPCAT1の発現量変動が通常のマウスでも起きうるかを解析し、臨床的な意義を見出す。 さらには、LPCATによるPC脂肪酸組成調節メカニズムをより詳細に明らかにするために、この酵素群の酵素活性を様々なサンプルで測定し、PCの組成と比較することによりモデルを提唱する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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