本年度は1.韻律によるアパブランシャ語文献の分類の試み,2.近代語による初期のインド文学の代表的な形式であるラーサー・バンダの由来,3.ジャイナ教とラーサーの関係の3点について研究を進めた。 まずテーマ1の目的は言語的に多様な要素を含むアパブランシャ語文献の年代を推定し分類する基準の一つとして韻律を用いることにある。古代インド語では様々な韻律が用いられてきたが、時代によって変遷が見られる。そのため韻律は年代推定が困難な文献の相対的な年代を推定するにあたって有用な場合がままある。当時の時代背景としては古典サンスクリット語による詩作・韻律技法が発展していた一方、またそれとは異なったタイプのモーラ数を基礎にした韻律が中期インド語を中心として定着しだしていた。本テーマではアパブランシャ語の最古の韻律を「マートラー律」と「ドーハー律」としたうえで、各種韻律の発展過程を仮定し、それにより文献間および文献内部におけるテキストの新古を推定する。対象とする作品は9世紀のスヴァヤンブーの作品を中心とする。日本印度学仏教学会第64回学術大会にて発表、さらに『印度学仏教学研究』第62巻第2号に論文掲載。 テーマ2においてはインドにおける近代語文学の嚆矢であるラーサー形式の文学について、その初期段階ではジャイナ教説話文学の影響が非常に強いこと、またそのことが後代の非ジャイナ教のラーサーの偉人伝的性格の強さにつながることを論じた。特に最初期のラーサーである「バラテーシュヴァラ・バーフバリ・ラーサ」を詳細にとりあげた。日本南アジア学会第26回全国大会において発表。 テーマ3においては修辞学や韻律学の論書におけるラーサー文学の形式についての記述の変化を追い,主に使用される韻律によってラーサーが規定されてきたことを明らかにした。『奥田聖應先生頌寿記念インド学仏教学論集』に掲載。
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