本研究は「適法なものとして現存している建築物や事業が、法改正や技術革新などにより不適法となった後もその存続を認められるという財産権の保障形態」(財産権の現存保障)を支える基礎理論を構築することを目的とするものであった。 本年度は、昨年度からの継続作業として、現存保障に関する総論的考察を行った。さらに、日独双方の個別領域を対象とした各論的考察を開始した。第一に、現存保障がなされなければならないという要請の根拠づけを示すことを目的とした考察を行った。今年度当初に立てた計画通り、現存保障は憲法上の財産権から直接根拠づけられるのか、法律によって具体化された規定に根拠づけられるのかという点をめぐる学説の論争およびそれに関連する判示をしている行政裁判所の判例の整理を行った。両極の間での微妙な揺れを見せつつも、大勢が憲法による直接の現存保障に対する否定に落ち着いていく様子を辿った。第二に、具体的な法制度において、現存保障がどのようにあらわれているのかを憲法上の財産権保障の観点から分析した。まずは、現存保障の起源となった分野である建築法制から始めたところ、それだけで、かなりの量の文献が集まり、それを読み解くこととなったため、建築法制を中心とした分析となった。当初予定していた、イミシオン防止法制、原子力法制については、建築法制との比較という形で取り扱うこととした。 成果として、本年度中に論文を公表することはできなかったものの、現在公刊を予定している財産権に関する単著のなかに組み込む形で、原稿の執筆を進めている。
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