今年度は、ハンセン病療養所を対象とする事例研究を主として進めてきた。多磨全生園などのハンセン病療養所および療養所退所者の居住する地域にて、聴き取り調査を実施した。また、各地のハンセン病療養所、公立図書館などの関連機関において、資料収集および文献調査を実施した。具体的な内容としては、患者運動や自治会などの政治的活動、文学や音楽などの文化的活動、相互扶助的な生活実践などについて調査を行った。 従来の研究において、被抑圧者やマイノリティによる集団的な活動は、支配システムに対する「抵抗か適応か」という二項対立的な枠組みのなかで、そのどちらかに属するものとして把握されてきた。そして、特にハンセン病者の集団的活動の場合、療養所生活への適応を促す機能としての側面にのみ関心が寄せられる傾向があった。しかし、本研究で対象とした事例は、こうした機能主義的な観点からは解釈できない含みを持っていた。今年度の調査からは、ハンセン病療養所入所者の集団的活動が持っていた意味として、(1)療養所内で自律的な生活領域を確保すること、(2)「希望」を創出し他者と分有すること、(3)非病者との接点をつくり生活の外延を広げること、といった様相が確認できた。療養所入所者は、集団で多彩な実践を展開することによって、ハンセン病者に押しつけられた「陰惨さ」とは別種の生き方と、それを可能にする別種の時間・空間をつくりあげていたのである。 本研究の成果は、単著として世界思想社から刊行されることが決まっている。2014年度中の出版を見込んで、現在は原稿の最終的な修正作業を進めている。
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