研究課題/領域番号 |
24890013
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
秋山 泰利 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70635557)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | SLCO4C1 / 尿毒症物質 / 尿毒症 |
研究概要 |
これまで我々は代表的な尿毒症物質であるインドキシル硫酸がSLCO4C1トランスポーターの発現や腎性貧血を引き起こす原因であることを明らかにした。慢性腎臓病患者において血中インドキシル硫酸濃度を低下させる治療法は、血液透析を除けば今のところ経口吸着炭であるAST-120に限られる。しかしながらAST-120投与による代謝の変化、またインドキシル硫酸以外の尿毒症物質の血中濃度の変化についてはほとんど知られていなかった。 今回申請者は、AST-120によるインドキシル硫酸以外の尿毒症物質の血中濃度変化を明らかにするため、5/6腎摘慢性腎不全モデルラットに対し4週間AST-120を投与し、血漿をキャピラリー電気泳動質量分析を用いて網羅的に解析した。146化合物の血中濃度を検討した結果、AST-120投与により血中濃度が低下する新規23物質を同定した。これらのうち10物質は腎不全にて体内に蓄積する、いわゆる腎不全物質であり、これら10物質はAST-120の効果を反映する腎不全物質であると考えられ、AST-120による体内動態の変化を推測する上で有用な情報となると考えられたため論文にて報告した(Toxins 2012)。 今回の結果によりAST-120による治療効果の詳細が明らかとなると考えられる。AST-120により吸着される物質は一般的に腸管にて腸内細菌により産生される物質や前駆物質が多く、今回検討したさまざまな物質の腸内細菌の寄与の可能性についても有益な情報となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで我々は慢性腎臓病患者において腎機能の低下とともに血中に蓄積する物質を網羅的に解析し報告している(Hypertension Research 2010)。これらの物質を用いたスクリーニングにおいて、in vitroでSLCO4C1の発現を低下させた物質は今のところインドキシル硫酸のみであり、慢性腎臓病においてSLCO4C1の発現を低下させる因子としてインドキシル硫酸は重要と考えられる。したがってSLCO4C1の発現を高めるためにはインドキシル硫酸の体内からの除去は非常に重要な治療戦略であり、血中インドキシル硫酸を低下させるAST-120は有効な治療法の一つと考えられる。 今のところラットに対するインドキシル硫酸投与によりslco4c1の発現が低下し、またAST-120にて慢性腎不全モデルラットにおいてslco4c1の発現が上昇することを明らかにしており、AST-120が慢性腎臓病においてSLCO4C1の発現増強を介し尿毒症物質の排泄を促進しうる可能性が明らかとなっている。本研究の目的である、SLCO4C1トランスポーターの発現増強を介した尿毒症物質排泄方法の開発の方向性は明らかとなったと考えられる。今後はこの効果をさらに高めるべく、インドキシル硫酸除去作用を持つ他の薬剤の探索と、AST-120との併用による相加・相乗効果について検討を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
慢性腎臓病においてSLCO4C1の発現を抑制するインドキシル硫酸の効率的な除去方法をさらに検討する。 具体的には尿毒症物質を吸着することが期待されている塩酸セベラマーなどを5/6腎摘慢性腎不全モデルラットに投与し、血漿・尿をメタボローム解析することで、インドキシル硫酸をはじめとする各種尿毒症物質の血中濃度低下作用のプロファイリングを行う。インドキシル硫酸の除去効率の高い薬物を探索し、さらにこれらを複合し相加的・相乗的なインドキシル硫酸除去が得られるかを検討する。 加えて、我々はHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチンがSLCO4C1の発現を増強し、ある種の尿毒症物質の排泄を促進することを報告しており、上記物質とスタチンの併用により、さらに効率的に血中インドキシル硫酸濃度の低下が認められるかも検討する。 さらにSLCO4C1の発現制御機構をさらに詳細に明らかにするため、大腸菌人工染色体(BAC)を用いヒトSLCO4C1遺伝子を中心とする200kbの領域の制御下にGFPを発現してその発現を可視化するトランスジェニックマウスの作製も進める。このトランスジェニックマウスを用いることで、各腎不全段階、あるいは各種薬物投与時におけるSLCO4C1遺伝子の制御機構を可視的に解析することが可能となり、新たな発現調節機構の解明と新規薬剤の探索が可能となると考えられる。
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