これまで申請者らが同定・単離し報告したSLCO4C1トランスポーターは腎臓近位尿細管の血管側に発現しており、内因性の代謝性物質だけでなく、ある種の尿毒素の排泄にも関与すると考えられている。一方、慢性腎臓病では腎臓や肝臓のトランスポーターの発現や機能が低下することが知られており、SLCO4C1も腎不全モデルでは発現が低下することが明らかとなり、腎不全時にはSLCO4C1による尿毒素の排泄が十分に行われなくなると考えられた。今回申請者は尿毒素が直接SLCO4C1遺伝子の発現を抑制するという仮説を立て、腎機能の低下に伴い体内に蓄積する各種物質を用いSLCO4C1 mRNA発現への影響をスクリーニングした。その結果代表的な尿毒素であるインドキシル硫酸(IS)が濃度依存性にSLCO4C1発現を抑制し、この抑制には転写因子GATA3の発現亢進を介していることを明らかにした。 In vivoの検討ではラットにISを投与すると腎slco4c1の発現が低下し、slco4c1の基質であるグアニジノコハク酸(GSA)の血中濃度が上昇した。さらに慢性腎不全モデルラットに対し経口吸着炭を投与したところ、ISの血中濃度の低下とともにslco4c1 mRNAの発現が有意に上昇し、GSAの血中濃度が低下した。これらよりISはSLCO4C1の発現を低下させることで、本来であればSLCO4C1により排泄されるべき尿毒症物質の蓄積をも招いてしまうことが示唆された。 これらの結果はISがSLCO4C1の発現低下を介してさらなる尿毒症物質の蓄積を招く、尿毒素蓄積の悪性サイクルの原因物質である可能性を初めて明らかにするものであり、ISを標的としたSLCO4C1の発現調節という新規慢性腎臓病治療の可能性をも示唆するものであり、有用な情報となると考えられたため論文にて報告した(PLoS ONE2013)。
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