研究課題/領域番号 |
25220702
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 卓克 東北大学, 理学研究科, 教授 (20224107)
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研究分担者 |
川島 秀一 九州大学, 数理学研究院, 教授 (70144631)
林 仲夫 大阪大学, 理学研究科, 教授 (30173016)
高橋 太 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10374901)
石毛 和弘 東北大学, 理学研究科, 教授 (90272020)
前川 泰則 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70507954)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 臨界型函数不等式 / 移流拡散方程式 / ラマン分光モデル / 非線形シュレディンガー方程式 / 質量共鳴 / 解の爆発 / 適切性 / 解の漸近挙動 |
研究実績の概要 |
ラマン偏光問題をモデルとする非線型シュレディンガー方程式の連立系は係数の条件に応じてその大域的な解の挙動が大きく変化することがこれまでの研究でわかってきたが, 時刻$0$近傍における適切性の条件に対しても係数の共鳴条件が適切性を与える函数空間の決定に影響を与えることがわかる. 空間次元が4次元の場合, これは系の持つ対称性(擬等角変換不変性)の反映であるが, 空間2次元ではこの対称性が壊れて一般に擬等角変換不変ではない. しかしながら漸近的な解の挙動にその影響が色濃く反映され, 質量共鳴条件, 質量相殺条件, 非共鳴条件のそれぞれの場合に適切となる函数空間が単独の非線型シュレディンガー方程式の2乗べきの問題の3つの場合に相当するソボレフスケールでの臨界適切性が瓜屋航太, 岩渕 司との共同研究により明らかになった.
移流拡散方程式の高次元における時間大域的挙動について, 2次モーメントが有限の場合に有限時刻での解の爆発に関する最良と思われる初期条件に対する十分条件を同定した. この結果はすでにBiler やCalvezらにより知られていたが, モーメントの重みを2次より逓減した場合にも解が存在したとしても有界にとどまらないこと, また球対称の初期条件の場合には有限時刻で爆発することを和久井洋司と共に示した. 証明には情報理論に現れるシャノンの不等式の一般化をその最良定数と共に証明し, 爆発判定条件の最良性に用いた. さらに和久井と共に, 高次元で臨界ノルムが有限時刻での爆発する解にたいして臨界ノルムが集中して解の凝集が発生することを, 形状分解定理を改良して分離型形状分解定理を確立し, ポテンシャル項を分離することにより示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ラマン分光モデルの解の挙動に付いては, 時間無限遠での解の挙動と時刻零近傍の解の挙動の対応性について擬等角変換から予想される, 大域挙動に於ける質量共鳴・質量非共鳴・質量相殺の各条件が時間局所的性質にも反映することが示され, 擬等角関係が必ずしも成立しない空間2次元においても同様な漸近的振る舞いを示すことが明らかとなった. これは系の持つ構造に次元を超越した幾何学的対称性が働くことを示唆した興味深い成果といえる. これはその後 3次の非線形項に関わる関連成果が得られることのきっかけとなっている.
さらに2次元移流拡散方程式の初期値問題の可解性については質量臨界を含む臨界状況をほぼ解決していたが, 空間高次元の問題は優臨界に対応し, 解の制御が非常に困難になる. 今回は時間大域解の不安定性を解の2次モーメントが非有界の場合に明らかにした. この問題は, スケール不変則基づく考察から優臨界問題に分類され, 球対称の問題に制限された場合のみ扱われていたが, 非球対称な可積分なクラスにおける設定では多くのことが未解決に残されていた. これは当初本研究の目的としていた臨界研究の範囲を超える予想を上回る成果といえる. また関連して多成分系の大域挙動についても連立系独特の挙動を振る舞うことが一部明らかになりつつある. 移流拡散方程式の大域的研究においては一部臨界指数を超えた成果も出つつあり, 臨界構造の理解に大いに寄与する優臨界研究に対する大きなステップにいたる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, 移流拡散方程式の高次元の挙動に付いて研究を行う. ことに退化型移流拡散方程式のモーメントを逓減した場合の弱解の解の漸近挙動や, 大域可解性の問題に研究を進める. とりわけ3次元以上の半線形移流拡散方程式の連立系の解の挙動は優臨界問題であるが, 今回得られた成果を元に, 成分ごとの解の挙動の分類や解の集中などのより定量的な解の挙動に付いて解析する. また, ラマン分光モデルで得られた解の非適切性の成果を移流拡散方程式に適用して, 非圧縮性ナヴィエ・ストークス方程式の非適切性に関わる理論の周辺を精査する. これにより非圧縮性ナヴィエ・ストークス系に対する適切性理論が問題に個別に作用する特別なものなのか, より一般的な構造によるものなのかを理解する. その延長上には移流拡散方程式系を導く圧縮性ナビエ・ストークス方程式の強解の存在定理・非存在理論がひかえており, 臨界可解性にかかわる議論が未解決に残されている. 臨界問題と圧縮性 ナビエ・ストークス方程式に関わる周辺問題の解の適切性について考察を進める. これらの研究に加えて, 放物型方程式の臨界最大正則性, 分散型方程式の臨界時空評価(いわゆるストリッカ-ツ評価)の臨界における拡張や, 各種変分汎函数に対する臨界函数不等式, 特に移流拡散方程式の研究で得られた一般化されたシャノンの不等式の発展系と双対性を研究する.
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