研究課題
本年度においては、特に、細胞の機能維持に深く関わる4つの根源的なストレス(酸化ストレス、浸透圧ストレス、小胞体ストレス、ミトコンドリアストレス)に関与する分子の探索(ゲノムワイドsiRNAスクリーニング、結合分子探索など)のほとんどを完了させ、解析分子の絞り込みを行った。具体的には、1)酸化ストレスに関与するASK1、ASK2複合体の結合分子の同定と解析。2)低・高、両方の浸透圧ストレスにおいてASK3活性を制御する遺伝子の網羅的同定と解析。高浸透圧で形成されるASK3顆粒に含まれる分子の同定。3)小胞体ストレスを引き起こすSOD1/Derlin-1結合を制御する遺伝子の同定と解析。またその結合を阻害する低分子化合物の探索と同定。4)ミトコンドリアストレスで切断を受けるPGAM5の切断を担う分子の網羅的同定と解析などである。それぞれ妥当性のある遺伝子や低分子化合物が得られており、順調に解析が進んでいる。また、各ストレス応答が関与する病態モデル(ASK1欠損マウスを用いたがんの肺転移モデル、KLHDC10欠損マウスを用いた全身性炎症応答モデル、PGAM5欠損マウスを用いた代謝性ストレスモデル)や細胞応答(ASK3を介する細胞体積調節)の解析などについても注目分子の関与が示唆される結果が得られたことから、本年度のスクリーニングなどにおいて新たに同定した相互作用分子の関与について引き続き解析を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
計画で提示した以下の4つの目標について、それぞれ概ね順調な進捗が得られた。【目標1】ASKファミリー複合体による酸化ストレス応答機構の解明:当初の計画通り、ASKファミリー複合体に含まれる分子の同定を行い、既にこの分子とASK1、ASK2との関係性の解析を始めている。ASKファミリー複合体に含まれる新たな分子の同定に成功していること、またこの分子が解析予定であったユビキチン修飾に関与するものであったため、今後も順調に解析が進むと考えられる。また、ASK1欠損マウスを用いたがんの肺転移モデル、KLHDC10欠損マウスを用いた全身性炎症応答モデルについて、時系列に沿った表現型のプロファイルを得ており、今後のより詳細な検討の基盤の構築ができた。【目標2】ASK3による浸透圧ストレス依存的両方向性細胞応答機構の解明:低・高、両方の浸透圧ストレスについてゲノムワイドsiRNAスクリーニングを終えて、候補遺伝子について解析を始めている。ASK3が浸透圧ストレス時の細胞体積調節に関与することも見いだしたため、候補遺伝子について今後解析すべき具体的な表現型を増やすことができた。【目標3】SOD1/Derlin-1結合による小胞体ストレスならびに亜鉛ホメオスタシス機構の解明:SOD1/Derlin-1結合を阻害する低分子化合物の候補が得られており、今後ALSモデルマウスへの応用を目指す手がかりを得ている。【目標4】PGAM5切断制御を介したミトコンドリアストレス応答機構の解明:PGAM5欠損マウスが代謝性ストレスに強いことを見いだした。また、PGAM5切断に関与する遺伝子のスクリーニングを完了しており、特定の候補の解析に進んでいる。
基本的に当初の計画通り研究を進めることができたため、4つそれぞれの目標について引き続き解析を行っていく。【目標1】ASKファミリー複合体による酸化ストレス応答機構の解明: ASK1、2の複合体に含まれる分子として新たに同定したユビキチン修飾関連分子について、既に明らかにしている他のユビキチン修飾関連分子との比較を行いながら、その役割について解析を進める。がんの肺転移モデルにおいては、ASK1のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、個体のどの臓器におけるASK1ががん転移に関与するか特定する。【目標2】ASK3による浸透圧ストレス依存的両方向性細胞応答機構の解明:低・高浸透圧それぞれのASK3制御遺伝子を比較して、細胞の浸透圧ストレス応答に関与する分子群のネットワークについて解析を行う。ASK3ノックアウトマウスも活用し、ASK3を含めた浸透圧応答分子が担う生理的役割について解析する。【目標3】SOD1/Derlin-1結合による小胞体ストレスならびに亜鉛ホメオスタシス機構の解明:SOD1/Derlin-1結合を阻害する低分子化合物の合成展開などを行い、実際にALSモデルマウスにおける化合物の効果の検討を目指す。SOD1/Derlin-1結合を制御するものとして同定した遺伝子については、この分子に注目して解析することでSOD1/Derlin-1結合の分子メカニズムに迫る。【目標4】PGAM5切断制御を介したミトコンドリアストレス応答機構の解明:PGAM5欠損マウスで新たに見いだした代謝性ストレスに対する抵抗性のメカニズムをPGAM5がミトコンドリア局在分子であるという点から解析を進める。また、PGAM5の切断を制御するものとして同定した遺伝子を手がかりに、ミトコンドリア膜電位の低下依存的に引き起こされる切断の分子メカニズムの解析を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 13件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 9件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 8件)
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