研究課題
本年度においても、引き続き4つの目標に分けてそれぞれ研究を進めた。【1:ASKファミリー複合体による酸化ストレス応答機構の解明】では、新たなASK1結合分子としてE3ユビキチン化酵素の基質認識分子を見出し、このE3がASK1の発現量制御に関わることを明らかにした。ASK1を制御するKLHDC10 KOマウスおいて、TNFα誘導性の全身炎症が緩和される一つの要因として炎症系細胞の細胞死が亢進していることを論文で報告した。低温ストレスによる細胞死が過酸化脂質を介してASK1を活性化し細胞死を引き起こす新たなシグナル伝達経路を見出した。【2:ASK3による浸透圧ストレス依存的両方向性細胞応答機構の解明】スクリーニングで得られた候補分子について、これまで以上に多くの分子についてsiRNAによる精査を行い妥当性の高い候補を絞り込んだ。特に、候補の中でも低浸透圧ストレスにおけるASK3上流分子としてある受容体に注目して解析を進めた。高浸透圧により形成されるASK3顆粒を細胞から単離することに成功し、構成因子の同定と解析を行った。【3:SOD1/Derlin-1結合による小胞体ストレスならびに亜鉛ホメオスタシス機構の解明】昨年度得られた候補分子について解析し、ユビキチン化関連分子がSOD1タンパク質の品質管理に関与することを明らかにした。また、亜鉛輸送タンパク質がSOD1の構造変化に関与することを見出した。【4:PGAM5切断制御を介したミトコンドリアストレス応答機構の解明】PGAM5の切断がミトコンドリア膜電位低下に伴うアポトーシスに関与することについて切断耐性変異体を用いて明らかにした。昨年度明らかにしたPGAM5 KOマウスの代謝に関する表現型の原因を解析するため、各臓器における遺伝子発現解析を行った。以上のように、これまでの研究成果を受けて全ての課題が順調に進展した。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度から今年度にかけて、マウスモデルなどを用いたin vivoレベルの解析が計画以上に進展したことから、それらの研究から新たに得られた情報を細胞・分子レベルのメカニズム解析の手がかりとして研究を遂行することが可能になっている。具体的にはKLHDC10 KOマウスにおける全身炎症モデル、ASK1 KOマウスにおけるがん転移の低下、SOD1/Derlin-1の結合阻害剤によるALSモデルの症状改善、PGAM5 KOマウスにおける代謝の変化などのテーマがあげられる。さらに、低温ストレスが過酸化脂質を介してASK1を活性化するなど、計画の時点では予想されていなかった現象を発見し、本研究課題とも密接に関連していることから、本研究では当初の想定を超えて研究が進展していると評価できる。
各目標課題について、これまでの研究成果を踏まえて以下の通り研究を推進する。【目標1】酸化ストレスにおけるASK1制御メカニズムの全体像について、これまでに同定したASK1に関わる複数のE3やKLHDC10、PP5の関与を比較しながら明らかにする。ASK1が担う酸化ストレス依存的細胞死についてMAPK以下についても詳細なシグナル伝達経路を明らかにする。ASK1の関与するがん転移について組織レベル以下の細胞機能、細胞内シグナル伝達の解析を進める。【目標2】スクリーニング等から得られたASK3制御分子およびASK3顆粒構成分子の解析により、哺乳類細胞の浸透圧受容・シグナル伝達メカニズムの提示を目指す。ASK3欠損マウス・細胞で観察された表現型について、本研究で同定したASK3関連分子の関与を検討する。【目標3】スクリーニングで得られた遺伝子群の解析を進め、SOD1立体構造の品質管理メカニズムの全体像について、亜鉛ホメオスタシス制御分子を絡めた理解を目指す。また、得られた遺伝子の情報からSOD1変異のない弧発性ALSと当該品質管理メカニズムの関連についても検証する。【目標4】これまでの知見に基づいてミトコンドリア膜電位依存的なPGAM5切断制御の詳細な分子メカニズムの解明を目指す。個体レベルの代謝に関与するPGAM5が機能する具体的な組織の特定と、その場でのPGAM5の役割についてミトコンドリアストレスと遺伝子発現変化という観点から解析を進める。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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