研究課題/領域番号 |
25257014
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
水内 俊雄 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (60181880)
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研究分担者 |
全 泓奎 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (00434613)
KORNATOWSK i.Gee 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 都市研究プラザ特別研究員 (00614835)
中山 徹 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (40237467)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | ホームレス / インナーシティ / 居住福祉 / 東アジア / 支援の地理学 |
研究実績の概要 |
実態論として、テーマ1:ホームレスの人々への居住福祉支援の組織化、制度化への政策支援研究、テーマ2:生活困窮者への居住支援や住宅施策と住宅資源のコンバージョンによるインナーシティ再生、そして理論的に、テーマ3:こうした生活困窮者への地域での支援システムが都市ガバナンスをどのように再編成し、都市社会、空間構造の変容に関する都市像を提示する研究業績が蓄積された。 テーマ1に関わる調査は、日本ではホームレス自立支援法から生活困窮者自立支援法へのセーフティネットの制度的移行の真只中で、制度移行が法律上の欠陥からうまくいかない実態をまず明らかにした。台湾においては、遊民対策と公的扶助である社会救助法との関連、さらに、先進的取組を行っている台北市における就労支援策についての調査が継続中である。 テーマ2に関しては、大阪のインナーシティにおける民間不動産業界による住宅支援や地域生活に関する調査が引き続き進められた。社会住宅供給という観点からは日本では旧同和地区での新しいまちづくりの継続的調査や、台湾における社会住宅供給に関する新しい動きに関する調査をおこない、両地域での関連団体の交流も行った。なお香港においては、中国深セン市の都市化過程とアーバンビレッジにおける移民労働とアフォーダブルハウジングの現状の調査も開始した。マカオやシンガポールについても引き続きテーマ1、2に関する調査が継続的に行われた。 テーマ3の理論的貢献については、東アジアに焦点を当てた、包摂都市論の形成に向けた研究領域の創生を目指し、昨年度は特に、欧米のホームレス研究者との交流をはかった。特に東アジア地域オルタナティブ地理学会議において関連セッションを開き、香港で開催した東アジア包摂型都市ネットワーク会議や、大阪において、ブラジル、イラン、香港、ドイツの実践家を招いての国際コロキアムでも、理論的な意見交換をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ1においては、特に日本においてセーフティネットの制度の大きな変革が行われ、ホームレス支援は制度的には結構翻弄されてしまったというのが実状である。本研究は日本でこの混乱状態に初めてメスをいれたという点では先進的な対応をしたといえる。政策支援研究という観点から、調査で得られた広域支援というシステムを地方政府が採用するような決断を促す、先進事例の提示をおこなった。ホームレスをめぐる制度面での変革は、東アジアでは相当にその進度が異なり、この違いを研究としてどのように克服していくかが課題としてあがってきている。 所属先の都市研究プラザで認定された共同利用・共同研究拠点・先端的都市研究拠点の管理運営に携わる中で、本研究の成果とのマッチングを図っており、とりわけ拠点事業の成果の大きな柱の一つとして、ブックレットシリーズの刊行を行った。研究領域との関わりでは、テーマ2については、テーマ3の理論的貢献とも関連するが、包摂都市にかかわる研究領域において、居住福祉や居住支援、エスニックコミュニティ、同和地区をはじめとする社会的不利地域の再生に関連した研究成果を刊行したい。 テーマ3の理論的貢献については、2つの主催した国際会議でホームレス問題に関するセッションを設け、国際発信とともに、地理学者やホームレス支援関係者との国際的交流ができた。この欧米のホームレス支援の地理学との研究交流では、研究の一つの最前線が、支援の社会的地理的ネットワークの形成のあり方と、都市ガバナンスや都市社会との関連に照射することが重要であることが確認された。各地域の独自な政策のあり方とそのアウトカムの捉え方、あり方についてさらにつっこんだ議論が必要となろう。また中国都市社会の変容については、香港に加え部分的に着手しはじめたが、深センとマカオでの予備調査の段階は終了し、上海との本格的な交流の足がかりをつかんだといえる。
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今後の研究の推進方策 |
この東アジアのホームレス支援研究で遅れていた理論的整理については、昨年度国際会議を開催することでようやく本格着手された。この勢いを都市論との接合や独自の地理学の提唱につなげてゆくことがひとつの課題となっている。寛容の空間、支援の地理学の持つ意味を空間的な組織化とネットワーク化の観点から、政策研究ともからめながら進めてゆく必要がある。包摂型社会を目指す包摂都市の理論的研究をはじめ、政策や実践レヴェルでの研究交流のプラットフォームの形成にも努める。そのため、「東アジア包摂都市ネットワーク・ワークショップ」の企画や運営を通じた都市間の共同研究や実践経験の共有、そして、その成果の可視化に向け、研究者をはじめ、行政や各都市のコミュニティワーカーとのネットワークの絆を一層深めて行きたい。また昨年度の欧米の地理学との意見交流をさらに深めるために、イギリスでの実地の支援のあり方の地理学者とのミニワークショップを開催する。 事例研究として詰めねばならない地域として、シンガポールのホームレス問題に関する現地調査を行い、移民労働者の住宅不安問題ならびにシンガポール国民世帯のファミリーホームレス問題と住宅支援を調査する。また台湾においては先進的施策や地方都市での施策をまとめること。韓国における公的扶助制度に関する既存研究を踏まえ、不安定居住層に対する制度的機能の実態などを、現地調査などを踏まえて明らかにすることが、優先的な取り組み課題となっている。公的扶助制度がホームレス層に対しているワンセットで機能している日本と東アジア先進国との比較研究は少ない。経済的成長が著しい東アジア先進国での最後のセーフティネットである公的扶助制度の制限的役割について、今後は韓国の既存研究を整理し論点をまとめることが課題である。もちろん日本の生活困窮者自立支援法下のホームレス施策の展開についての調査も必須である。
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