研究課題
基盤研究(B)
遺伝毒性発がん物質の作用には閾値がないものとされているが、実際にヒトが曝露される低用量域においては、生体防御機構により遺伝毒性が抑制される可能性が考えられる。環境化学物質の遺伝毒性リスクに関して、生殖細胞および経世代の遺伝的影響の特徴は明らかでない。本研究では、変異検出用レポーター遺伝子導入トランスジェニックマウスと次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて、遺伝毒性の経世代的影響を評価する。体細胞および生殖細胞に塩基置換変異を誘発するエチルニトロソ尿素(ENU)を、8週齢の雄gpt deltaマウスに85 mg/kg b.w.の用量で週1×2回腹腔内投与した。投与後10週目から無処理雌マウスと本交配を行い、F1個体を得た。父マウスの肝臓、精巣および精巣上体、母および子マウスの肝臓をサンプリングした。ENU投与雄マウスの精巣における点突然変異体頻度をgptアッセイによって測定した結果、点突然変異は対照群の約100倍に増加した。ENU投与群および対照群の各1家族単位を用いてNGS解析を行った。肝臓からゲノムDNAを抽出し、全エクソンシークエンシングを行った。得られた塩基配列を参照ゲノム配列に対してマッピングし、参照配列と異なる変異塩基リストを作成した。変異の親子間比較を行い、F1個体のゲノムに新規に誘発された変異を抽出した。次世代変異の数を解析対象エクソン領域の塩基数で除して次世代変異頻度を算出した結果、ENU処理マウスの子では無処理マウスの子と比較して有意に高い変異頻度を示した。本研究成果を日本環境変異原学会第42回大会等にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、突然変異検出用gpt deltaマウスにENUを投与し、無処理雌マウスと交配して家族単位の組織サンプルを得た。投与後7週目から無処理雌マウスと仮交配を行い、雄マウスが一時的に不妊になっていることを確認した。これによってENUへの十分な曝露が確認され、実験の妥当性を担保することができた。また、ENU投与マウスの精巣を用いて点突然変異頻度の測定を行い、点突然変異が顕著に誘発されていることが確認された。体細胞および生殖細胞における突然変異体頻度を測定するためのサンプルが得られたと考える。本実験で得られた家族単位の組織サンプルを用いて、全エクソン領域を対象としたNGS解析を実施した。変異の親子間比較によってF1個体に新規に誘発された変異候補の抽出を行い、ENU処理マウスのF1個体において、無処理マウスのF1と比較して多数の変異候補を検出することができた。検出された変異の特徴は、過去にトランスジェニック突然変異試験等で得られたENU誘発体細胞突然変異の特徴を反映していた。次世代変異頻度を算出した結果、ENU群で有意に高値を示した。NGS解析によって次世代変異の検出が可能であることが示唆されたと考える。
前年度に検出したENU誘発変異について、サンガー法(キャピラリ型シークエンサー)による確認シークエンシングを行い、NGSによる変異検出法の妥当性を検証する。確認後の突然変異数を用いて次世代変異頻度の算出および変異スペクトルの作成を行う。NGSによって次世代突然変異を効率的に検出するための条件を検討する。また、次世代変異の用量―反応関係の検討を行うための動物実験を実施する。雄gpt deltaマウスに中・低用量のENUを投与し、各用量における家族単位のゲノムサンプルを取得する。次年度以降は、各群1家族単位について全エクソン領域のNGS解析を行う。突然変異の親子間比較を行い、子マウスゲノムに新規に誘発された変異を検出する。各用量群における次世代変異頻度を算出し、用量-反応曲線を作成する。親個体の体細胞と生殖細胞における突然変異の測定を行う。体細胞変異頻度の測定には肝臓DNA、生殖細胞変異頻度の測定には精巣および精子DNAを用いる。gptアッセイを行い、点突然変異頻度を算出してそれぞれの用量-反応曲線を作成する。遺伝毒性物質に曝露された個体の体細胞と生殖細胞における突然変異誘発性の感受性の違いを検討する。体細胞および生殖細胞における変異原性と次世代個体ゲノム変異との相関について検討する。次世代変異の定量的評価を通じて遺伝毒性の経世代的影響と生体防御機構の関与について考察する。
本研究では次世代DNAシークエンサーを用いたシークエンス解析および突然変異部位の塩基配列解析を外注する費用を計上している。初年度の結果から、次年度以降に約500万円の解析費用が見込まれるため、次年度使用額とする。H26年度に実施する動物実験で得られる組織サンプルを用いて次世代DNAシークエンサーを用いた塩基配列解析および変異検出の外注を行う。想定されるサンプル数分の全エクソン解析に約500万円を充当する計画である。内容としては、組織から抽出したゲノムDNAからゲノムライブラリーを作成し、全エクソン領域の濃縮を行った後、NGS解析を行う。対象となるエクソン領域(50Mb)に対するシークエンス冗長度は約100倍(5Gb)を目安とし、得られた塩基配列を参照ゲノム配列に対してマッピングする。各サンプルの配列データから参照配列と異なる変異塩基リストを作成し、変異の親子間比較を行う。
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