研究実績の概要 |
遺伝毒性発がん物質の作用には閾値がないと考えられているが、環境化学物質等の遺伝毒性リスクに関して、生殖細胞および経世代の遺伝的影響の特徴は明らかでない。本研究では、変異検出用レポーター遺伝子導入トランスジェニックマウスと次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて、遺伝毒性の次世代個体への影響を定量的に調べることを目的とした。親子のゲノム配列を比較して子に新たに生じた遺伝子変異を検出し、突然変異頻度を算出して次世代ゲノムへの遺伝的影響の測定を試みた。変異検出用レポーター遺伝子を導入した雄gpt deltaマウスに変異原物質ENUを85, 30, 10 mg/kg b.w.の用量で週1×2回腹腔内投与し、投与後10週目から無処理雌マウスと交配してG1個体を得た。ENUを投与した父マウスの肝臓、精巣および精子からゲノムDNAを抽出し、gpt突然変異体頻度を測定した結果、投与群の各組織において突然変異体頻度の有意な増加を認めた。高・中・低用量ENU投与群および対照群につき1家族(両親と子4匹の計6匹)の計24個体について肝臓からDNAを抽出し、全エキソーム解析を行った。各個体で検出されたSNVsの親子間比較によって子に生じたde novo変異候補を抽出し、次世代変異頻度を算出した。ENU用量依存的に子のゲノムにおける変異が増加し、ENU誘発変異に特徴的なA:T塩基対の変異が多く検出された。NGSを用いた生殖細胞突然変異検出法の有用性が示唆された。NGSが検出した変異候補について、適切なフィルタリングによってサンガー法による確認を省略できることを示した。無処理群において極低頻度の突然変異を検出するためには全ゲノム解析が必要と考えられた。研究成果はMutation Research誌に原著論文を発表した。
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