研究実績の概要 |
動物は常に変化する外界からの情報に応じて適応的な行動を取る必要がある。脳に対する感覚情報の入力、情報の意味づけ、それに基づく行動の選択という一連の神経プロセスはどのようなものであろうか?この問いに答えるために、本研究では脳が透明なゼブラフィッシュ稚魚とカルシウム蛍光プローブを用いて、捕獲行動中の脳機能イメージングを行った。ゼブラフィッシュの摂食行動は視覚依存的であることから、捕獲行動中は視覚認知の過程に関わる神経細胞集団の活動を伴うことが予想されたことから、視覚情報処理中枢である中脳視蓋、前脳、間脳、小脳などのカルシウムイメージングを行い、捕獲行動に関連する神経活動を探索した。カルシウムプローブとしては高感度な改良型GCaMP(GCaMP7a, GCaMP6s,GCaMP6f, GCaMP6m)を利用し、GAL4-UASシステムを利用するために、UAS:GCaMP遺伝子導入ゼブラフィッシュをまず作製した。その際、高い発現レベルを実現するためにhsp70遺伝子の翻訳領域上流650bpのプローモータ領域を利用した。脳部域特異的なGal4系統を複数選び、捕獲行動時の神経活動を脳全体に関して網羅的に探索した結果、前視蓋領域が獲物(ゼブラフィッシュ稚魚の餌となるゾウリムシ)が近くに存在したときに活動性を示すことを見出した。また、二光子レーザーを照射によりこの前視蓋の細胞を破壊した稚魚では、捕獲行動が抑制されることを明らかにした。これらのことからこの前視蓋領域がゼブラフィッシュの「餌検出器」として役割を担うことが明らかになった。さらに、前視蓋領域は、摂食中枢として知られる視床下部下葉へ投射することを見出した。これらの結果から、餌の視覚情報を捕獲行動を動機付ける中枢へと運ばれるためには、前視蓋-視床下部下葉の神経回路が重要であること結論された。
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