研究実績の概要 |
成体雄マウスに内毒素LPSを腹腔内投与し、1, 4, 24時間後に海馬をはじめとする7つの脳部位と脾臓をホモジナイズして、33種のサイトカイン濃度を一斉定量出来るマルチプレックス解析を行い、saline投与1時間後の対照群と比較した。同じ時間経過でマウスを4%PFAにて灌流固定し、7つの脳部位と脾臓の切片を作製し、脳・脾臓で検出したサイトカインとその受容体に対する免疫組織染色を行った。その結果、脾臓では15種のサイトカインの濃度がLPS投与1, 4時間後に上昇した。脳では11種のサイトカイン(TNF-α, CCL2, CCL3, CXCL1, CXCL2, IL-6, CXCL9, LIF, CXCL10, CCL11, G-CSF)がLPS投与後に増加したが、その経時変動パターンは脾臓とは異なった。IL-6, CCL2, CCL3, CXCL1, CXCL2, CXCL9, TNFαはLPS投与4時間後に上昇する「早期サイトカイン」であり、CCL11, CXCL10, G-CSF はLPS投与24時間後に上昇する「後期サイトカイン」であった。早期サイトカインは、脈絡叢上皮細胞、脈絡叢間質・髄膜間質のストローマ細胞、脳血管内皮細胞が産生した。受容体であるCCR2, CXCR2はアストロサイトの終足に発現していた。後期サイトカインはアストロサイトが産生した。本年度は、免疫組織染色に関して、抗体の特異性の確認と、二重蛍光染色の定量評価を重点的に行った。以上より、全身炎症が生じると、免疫系と脳のインターフェイスに位置する髄膜・脈絡叢のストローマ細胞、脈絡叢上皮、血管内皮が早期に応答し、脳の広範囲にわたって、多彩なサイトカインを介する細胞間相互作用をアストロサイト突起と行うことにより、免疫応答が脳に伝達されることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
末梢の炎症反応が脳へと伝達される経路として、鼻腔から嗅粘膜・嗅神経を介して嗅球へと至る神経回路に着目し、米国ペンシルバニア州立大学との共同研究を開始することができた。この実験では、成体マウスの片側鼻腔に内毒素LPSを滴下する作業を1日1回、週3日隔日で行い、4週間継続した。この片側鼻腔の慢性炎症によって、nasal mucosaの特定の部位が炎症により萎縮・変性すること、olfactroy sensory neuronが変性し、periglomerular cellにおける遺伝子発現パターンが変化し、さらには、glomerulusにおけるシナプス形成が低下することが明らかになって来た。即ち、末梢における炎症反応が中枢神経系の変性を惹起することが分かってきた。今後は、この慢性炎症刺激を、嗅球のmitral cellおよびtufted cellを特異的に蛍光標識できる遺伝子改変マウス(Tbx21Cre/ tdTomato)に対して行い、4週間の慢性炎症によって、mitral cellおよびtufted cellの細胞体が変性・脱落するのかを明らかにしたい。また、mitral cellおよびtufted cellの軸索変性がどの程度中枢神経系の深部にまで及んでいるのかを、可視化した嗅覚神経回路を蛍光顕微鏡下に直視する手法と、嗅覚神経回路に沿った各領域(anterior olfactory nucleus, lateral olfactory tract, olfactory tubercle, piriform cortex, entorhinal cortex)におけるmessenger RNAの網羅的発現解析を次世代シーケンサーにて行う手法(RNA seq)を組み合わせて評価したい。
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