研究課題/領域番号 |
25290020
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
島田 厚良 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, その他部局等, その他 (50311444)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鼻粘膜 / 炎症 / 髄膜 / 嗅球 / 軸索変性 / グリオーシス |
研究実績の概要 |
平成26年度末より計画の一部を修正し、27年度には、鼻腔の持続的感染性炎症が嗅球のシナプス減少とグリオーシスを誘発する組織変化の解析に関する国際共同研究を軌道に乗せ、本年度はこの研究に進展があった。実験方法として、マウスの片側鼻腔に内毒素LPSもしくは生理食塩水(対照群)を1週3回反復投与し、初回投与の7,14,21日後に灌流固定した。鼻腔を含む吻側頭蓋を温存した嗅球の凍結切片を作製し、炎症細胞や嗅上皮・嗅球の組織構築に対する各種抗体をマーカーに用いて免疫蛍光染色を行い、形態計測した。 その結果、投与1日後からLPS処理側嗅粘膜の外側部に炎症細胞が浸潤し21日後まで持続した。成熟olfactory sensory neuron (OSN)は3日後から減少し21日後にはほぼ消失、幼弱OSNは14日後以降に大幅に脱落した。OSN脱落は外側部嗅粘膜で顕著であった。投与21日後には、LPS処理側の外側部OSN axonが投射する外側部嗅球のglomerular layer でaxonが減少し、periglomerular cellの一部のサブセットが減少した。Mitral/tufted cellのdendriteがperiglomerular cell、granule cellとの間に形成するdendrodendritic synapseは外側部嗅球で著減し、granule cell のdendriteも外側で減少した。同部位では活性化ミクログリア、反応性アストロサイトが増生し、グリオーシスは14日後にピークに達していた。 以上より、鼻腔の持続的感染性炎症によってOSNが脱落し、軸索変性を介して、嗅球のシナプスが減少し、グリオーシスが生じることを示した。この内容はScientific Reports 誌に投稿し、現在reviseの段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究グループの研究員のひとりが海外の大学へ転出したが、転出先の研究室との共同研究が順調に進展し、平成26年度より一部計画を修正して開始した嗅覚神経回路を場とする炎症と脳実質変性との関連性を探究する実験に一定の成果が出た。本年度はその成果を国際学術誌に投稿し、追加実験も終えて、年度末時点でreviseの最終段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、鼻腔の持続的感染性炎症が嗅球のシナプス減少とグリオーシスを誘発する組織変化の解析については、論文発表の形で完成させる。今後は、この慢性炎症刺激を、嗅球のmitral cellおよびtufted cellを特異的に蛍光標識できる遺伝子改変マウス(Tbx21Cre/ tdTomato)に対して行い、3週間の慢性炎症によって、mitral cellおよびtufted cellの樹状突起・細胞体が変性・脱落するのかを明らかにしたい。さらに、慢性炎症刺激を継続し、10週間後には、mitral cellおよびtufted cellの樹状突起・細胞体・軸索変性がどの程度進行するのかを明らかにする。その後は、10週間の慢性炎症刺激を停止して非炎症状態に戻し、嗅上皮・嗅球の神経回路が再生するのか否か、また、再生する場合には、どの程度の時間経過をもって生じるのか、さらには、再生の際にいかなる遺伝子発現の変化が重要であるのかなどについて新たな知見を追究していたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度後半に他研究機関への異動が決まり、研究室の片付け・引越し等の作業のため、研究を中断せざるを得なかった。その結果、577,856円の残額が発生した。これにつき、新任地での研究立ち上げ費用を含めて、研究の継続のために使用する必要があると判断し、1年間の期間延長を日本学術振興会に申請したところ、承認された。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は新任地である杏林大学にて、鼻腔の持続的感染性炎症が嗅球の投射ニューロンの樹状突起・軸索に及ぼす影響、および、脈絡叢が脳と免疫系の細胞間相互作用を制御する仕組みを機能組織学的に解明する研究を展開する計画である。
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