研究課題/領域番号 |
25290078
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松本 雅記 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (60380531)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プロテオミクス |
研究概要 |
これまで構築してきた各種プロテオミクス技術を用いた細胞内パスウェイ構造解析を遂行する。具体的には増殖期、休止期、癌化、老化、ストレス下などの異なる細胞状態を作り出し、これを対象に代謝経路、シグナル伝達経路、細胞周期制御経路を中心にタンパク質の絶対定量を行う。 H25年度は代謝経路の絶対定量を実施した 代謝パスウェイは約1,000種類の酵素によって触媒される連続した生化学反応であり、代謝酵素を計測すれば細胞内における代謝酵素活性を概算することも可能である。既に取得している16000以上のヒト蛋白質のMS/MSスペクトルライブラリーより代謝経路に関わるタンパク質の情報を抽出し、50000以上のMRM-transitionを作成し、高感度transitionsの選定と最適化を実施した。その結果、全く前分画を行っていないヒト正常線維芽細胞消化物から直接的に約650種類の代謝酵素の絶対定量に成功した。代謝酵素の存在量は1細胞当たり104~108分子と極めて広いダイナミックレンジを有していることが明らかとなった。また、本方法の再現性や定量精度を確認するために、200種類のペプチドに対する絶対定量を10回試行したところ、93%のペプチドが10回中10回の高い再現性で検出された。さらに、95%のペプチドの定量値がCV値20%以下であり、定量精度も極めて高いことが判明した。 さらに、本方法を用いて、ヒト由来の12種類の細胞に関して代謝酵素の絶定量計測を行い、代謝パスウェイ構造の細胞間比較を行うことで、解糖を中心とした代謝経路の量的関係が細胞間で比較的保存されていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りにH25年度においてタンパク質絶対定量のための事前情報取得や高感度分析のためのメソッド構築などを順調に終えた 。また、当初、検出感度が低いペプチドに関しては細胞分画法を取り入れるなどを検討したが、スループット低下につながることから、実試料中でのMRMメソッド最適化を徹底的に実施することで、スループットを保ったまま網羅的な絶対定量が可能なメソッド構築に成功できたため、次年度の研究がより加速できる可能性が高い。さらに、より計測の高速化を図るための新たな方法論の開発(SWATH法)やロボットによる全自動プロテオ ーム試料調製法の確立なども積極的に展開した。このように、現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に展開しており、今後も特に大きな技術的問題等 は生じないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画通り以下の項目に沿って研究を行う。 1) シグナル伝達経路の絶対定量:KEGG等に登録されている主要なシグナル伝達経路構成タンパク質をターゲットとした絶対定量法の確立する。得られた計測メソッドを用いいて、各種細胞におけるシグナル伝達経路の絶対定量を実施する。特に、各タンパク質間の量的関係が細胞ごとに異なるか否かを明らかとすることを目標に解析を進める。 2) リン酸化プロテオミクスによるシグナル伝達ダイナミクス計測:上記の解析によりシグナル伝達経路が特徴的な細胞種が見いだされれば、これらを対象に各種増殖因子等に対するシグナル伝達応答をリン酸化定量プロテオミクスによって計測、比較する。特に、多点での計測が必要にあるためSWATH法などの最新プロテオミクス技術の導入も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
よりハイスループットな解析法の確立に向けてMRMに必要な内部標準を合成ペプチドとして調製する予定であったが、現時点では予定より候補数が多すぎた。上位候補だけでも現在500種類以上のペプチドを合成する必要があり、コスト的に不可能であることから、更なる精査を進めて候補数を減じる必要がある。旅費に関しては、研究打ち合わせをウェブ会議で行うなどで時間と経費の節約を図ったため繰り越すこととした。また、その他の費用も現在行っている研究成果の論文投稿で使用する予定であったが、投稿に向けた追加実験等の必要が生じたため繰り越すこととした。 合成ペプチドを200-300種類ほど作製する。また、これらの合成ペプチドの標識に使用する試薬等の購入を予定している。旅費に関しては実験法の指導等を受けるための研究打ち合わせや学会発表等に使用する。その他の経費は論文投稿にかかる費用として使用予定である。
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