研究課題
本研究の目的は、われわれが最近開発した画期的な次世代定量プロテオミクス技術を用いたタンパク質絶対量計測法(従来のウェスタンブロット法と比して1万倍の効率を誇る)を駆使して生命システムを構成するパスウェイ構造を決定することである。近年、膨大な生命科学研究の知見を元に各パスウェイのモデル化がなされているが、これは異なる条件下の知見を統合したものであり、必ずしも現実の状態を反映しているわけではない。本研究では、パスウェイ・モデルを実体化するために、タンパク質絶対量計測によるパスウェイ構造の決定と、様々な条件下でのパスウェイ構成成分間の相互作用やリン酸化の定量的解析によるモデルの拡充と検証を行う。H26年度は主にシグナル伝達経路の絶対量計測を実施した。蛋白質リン酸化酵素やアダプター分子などは比較的容易に検出・定量することが可能であったが、核内に存在する転写因子等は極めて微量であることから検出が困難であった。そこで核内蛋白質の特異的分画法を開発し、本問題を解消した。さらに、蛋白質間相互作用を解析するために幾つかのシグナル伝達関連分子に関して免疫沈降-MS法を適用した。これによって従来検出することが困難であった相互作用も定量的に検出することが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通りにH26年度においてはKEGGデータベース等に格納されているシグナル伝達関連蛋白質を中心に絶対定量のためのメソッド構築と実際の定量を実施した 。転写因子等の核内微量蛋白質については昨年度、スループット上の理由から試行を断念した細胞分画法の詳細な検討を実施することで、効率良く検出できる方法論を構築した。またプロテオーム解析のための蛋白質試料調整法の完全ロボット化に成功し、サンプル調整の大幅な再現性向上を達成した。現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に展開しており、今後も特に大きな技術的問題等 は生じないと思われる。
今後は、当初の計画通り以下の項目に沿って研究を行う。1)リン酸化情報の網羅的取得とデータベース化: これまでに高純度リン酸化ペプチド精製技術によって大規模なリン酸化ペプチド情報を可能とする方法を開発している(既に30,000以上のリン酸化部位を同定しデータベース化済み)。本研究での解析対象の細胞株に対して、情報基盤定量法に必要なリン酸化情報を収得する。2)情報基盤定量法を用いたリン酸化の定量解析: リン酸化ペプチド情報を用いて情報基盤定量法を適用し、様々な液性因子(EGF, FGF, Insulin, TGFβなど)刺激におけるリン酸化変動を計測する。リン酸化ペプチドの解析においては大規模な相対定量(SWATH法: Sequential window acquisition of all theoretical fragment-ion spectra)と、ある程度標的を絞った絶対定量(MRM法)を併用する。3. 絶対量情報を用いたパスウェイ構造決定: 既知パスウェイ情報に、絶対量情報、相互作用情報を統合・可視化し静的パスウェイ構造の決定・拡張を行う。さらに、刺激依存的なリン酸化や相互作用の変化を重ね合わせることで動的なパスウェイ構造を明らかとする。さらに、パスウェイ構成要素のノックダウンやキナーゼ阻害剤等による撹乱を与えた際のパスウェイの挙動を調べることでパスウェイ・モデルの検証を行う。
論文投稿に向けた追加実験等の必要が生じたため。
追加実験に使用する試薬等の購入及び、論文投稿にかかる費用として使用予定である。
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Cell Rep.
巻: 8(4) ページ: 1171-1183
10.1016/j.celrep.2014.07.021
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/index.html