研究課題/領域番号 |
25291001
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永田 恭介 筑波大学, 学長 (40180492)
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研究分担者 |
奥脇 暢 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50322699)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝子 / ウイルス / ゲノム / 発生・分化 / クロマチン |
研究実績の概要 |
(1)TAF-I KOマウスを用いた生理機能解析:TAF-I KOマウスは胎生8.25日目から発生に異常を示しはじめ、胎生12.5日目までに致死となる。TAF-Iによる遺伝子発現への影響を培養細胞系で解析するために、TAF-I KO ES細胞を樹立した。フィーダー細胞とLIF用いて未分化状態を維持する培養条件では、TAF-I KO ES細胞と野生型ES細胞の間で細胞増殖能にほとんど差は見られなかった。しかし初期胚発生を模したembryonic body(胚様体)形成への影響を見たところ、TAF-I KO ES細胞は野生型に比べて細胞増殖の著しい低下が観察され、胚様態成長が遅延することが明らかとなった。以上の結果は、TAF-I KOマウスの胚発生で観察された成長の遅延を再現していると考えられる。 (2)クロマチン構造変換に基づく遺伝子制御機構:培養細胞系においてsiRNAを用いたTAF-I KDを行い遺伝子発現への影響を解析したところ、インターフェロン誘導性遺伝子群の転写に異常が観察された。TAF-IはヒストンH1シャペロンとして、ヒストンH1のクロマチン結合性を制御することが明らかとなっている。そこで、TAF-Iがインターフェロン誘導性遺伝子領域におけるヒストンH1の量的変化に与える影響を、クロマチン免疫沈降法により解析した。その結果、TAF-IをKDした細胞ではインターフェロン添加前のインターフェロン誘導性遺伝子プロモーターのヒストンH1量が減少し、またmRNA量も増加していることが分かった。一方インターフェロン添加後は、TAF-I KD細胞ではヒストンH1のプロモーターからの解離が遅延し、またそれに並行して転写活性かも遅延した。以上の結果より、TAF-IはヒストンH1を介してインターフェロン誘導性遺伝子の正常な刺激応答性転写活性化に関わる事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はクロマチン構造変換に基づく遺伝子制御機構(実験計画3)について、TAF-IがヒストンH1を介してインターフェロン誘導性遺伝子の正常な転写活性化ダイナミクスに関わることを明らかとし、この研究成果は既に論文として報告した。またTAF-IはN末端の数十アミノ酸配列のみが異なるαとβの2つのサブタイプが存在し、細胞によってその発現量比が異なる。TAF-Iαとβは異なるヒストンH1シャペロン活性を示し、これが細胞ごとの異なる遺伝子発現パターンの形成に重要な役割を果たすと考えられるが、その分子メカニズムは明らかでなかった。これについて我々は、TAF-IαのN末端アミノ酸領域が、TAF-IのヒストンH1シャペロン活性に必要なC末端酸性アミノ酸領域に分子内相互作用することで、自身のヒストンH1シャペロン活性を負に制御することを明らかとした。この成果についても現在投稿準備中であり、当計画について進捗状況は十分であると考えている。 またTAF-I KOマウスを用いた生理機能解析(実験計画1)についても、TAF-I KOマウス胚からのES細胞の樹立に成功し、また胚様体形成の遅延という表現型が出ることを明らかとした。このKO ES細胞の胚様体分化に付随する遺伝子発現パターンを解析することで、TAF-I KOマウスの胎生致死表現型の原因解明につなげることが出来ると考えており、こちらも進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)TAF-I KOマウスを用いた生理機能解析:TAF-I KO ES細胞の胚様体分化における遺伝子発現プロファイルをcDNAマイクロアレイにより解析し、野生型と比較する。これより、胚様体分化の遅延の原因となる遺伝子を探索する。これら遺伝子の分化に伴うクロマチン構造の変化にTAF-Iがどのように関わるかを明らかにするため、クロマチン免疫沈降法により明らかにする。また実際にTAF-Iのもつどの機能がこれらの過程に関わるかを明らかにするため、各種変異体を用いたレスキュー実験を行う。 (2)精子クロマチンの細胞型クロマチンへの変換機構:マウス受精卵においてTAF-Iの機能阻害あるいは発現抑制を行うため、第一減数分裂期の卵子へのTAF-IのmRNAに対するアンチセンスオリゴ、あるいはsiRNAをインジェクションし、試験管内受精後の胚発生および精子クロマチン動態への影響を解析する。 (3)クロマチン構造変換に基づく遺伝子発現制御機構:インターフェロン誘導性遺伝子と同様に、TAF-IのヒストンH1シャペロン活性依存的に転写制御を受ける遺伝子群を探索するため、siRNAによるTAF-IおよびヒストンH1それぞれの発現抑制を行い、cDNAマイクロアレイにより遺伝子プロファイルを解析する。この時TAF-Iαとβのそれぞれあるいは両方をKDすることで、TAF-Iのサブタイプ特異性についても同時に検証する。TAF-IとヒストンH1のそれぞれで変動する遺伝子の中で共通するものを探索する。これらの遺伝子において実際にTAF-IがヒストンH1の量的変動に関わるかを、クロマチン免疫沈降法により解析する。またアデノウイルス感染サイクルにおけるウイルスクロマチン構造変換について、TAF-I非依存的なProtein VIIのウイルスDNA配置機構についてさらなる解析を行う。
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