本申請課題では、ヒストンの動態に深く関与すると考えられるヒストンシャペロンの生理機能を明らかにすることを目的とし、ヒストンH1シャペロンであるTAF-Iの機能解析を行う。平成27年度は、クロマチン構造変換に基づく遺伝子制御機構の解明のため、以下の2つの解析を中心に進めた。 (1)TAF-Iの2量体構造に基づくヒストンシャペロンの機能制御機構の解析:ヒトおよびマウスには、N末端の約30アミノ酸領域のみが異なるTAF-IαとTAF-Iβの2つのアイソフォームが存在し、ホモあるいはヘテロ2量体を形成する。TAF-Iβの方がTAF-Iαより高いヒストンシャペロン活性を示すが、その機能差を生み出すメカニズムは明らかでない。これについて生化学的解析により検証したところ、TAF-Iβに比して塩基性アミノ酸に富むTAF-IαのN末端領域が、TAF-Iの活性に重要なC末端酸性アミノ酸領域と分子内相互作用を形成することでその機能を抑制することを見出した。 (2)TAF-Iをプローブとした感染細胞におけるアデノウイルスゲノム動態解析:TAF-Iがアデノウイルス感染初期にprotein VIIとの結合を介してウイルスDNA上にリクルートされることに着目し、EGFP/mCherryを融合させたTAF-Iを用いたライブセルイメージング系を確立し、感染初期におけるウイルスDNAの挙動をリアルタイムで観察した。その結果、広く信じられている「DNAウイルスのゲノムはPML-nuclear body(PML-NB)に局在する」という仮説に反して、アデノウイルスゲノムは感染初期においてPML-NBに局在しないこと、さらに他の核内の抗ウイルス因子にも認識されない可能性が示された。
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