研究課題
基盤研究(B)
雌雄が異なっているのは、動物においてはほとんど当たり前であるし、その配偶子に至っては卵と精子で大きさに極端な相違がある。興味深いのは藻類で、同形から異形、異形から卵生殖へといった進化の中間体が生存している。アオサ藻綱に属するヒラアオノリの雌雄配偶子は同形から異形へわずかに進化した種で、株によっては雌雄の大きさが逆転していたりもする。大きさという変動しやすい量的形質から、左右の非対称性という空間的で一義的な形質に目を転ずると、眼点と接合装置の位置が雌雄で逆転していて、雌雄の個体サイズの差が生じる前から雌雄に左右の非対称性があることが分かってきている。この非対称性を可能にした雌雄の細胞表層の構造の相違と遺伝子に注目して、同形配偶子にあってなお異なる雌雄の差異を明らかにしたい。本研究課題では、アオサ藻綱のなかでも配偶子が同形から異形への進化の途上にあるヒラアオノリを用いて、雌雄の個体サイズの差が生じる前から存在する雌雄の非対称性がどうやって生じ、如何にして認識されるかを、ヒラアオノリの雌雄配偶子を用いた「免疫サブトラクション法」と「EST/MSサブトラクション法」で明らかにしたい。雌雄それぞれの接合装置に特異的な蛋白質に対する抗体を作成しその遺伝子を同定するとともに、それらが接合装置として雌雄で異なった配位で細胞表面に提示されるダイナミズムをFE-SEM(電界放射型走査電顕)や免疫電顕、連続切片法によるTEM(透過電顕)で明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
雌雄の異形化という性的二形性は、接合装置の雌雄での非対称的な配置の延長線上にある。ヒラアオノリでは配偶子の異形化はわずかであるが、「免疫サブトラクション法」により雌(♀)の接合装置のみを認識する抗体が作成できている。今回の「免疫サブトラクション法」により作製された雌(♀)特異的抗体は250kDaと80kDaの蛋白質を認識していることを明らかにしている。雄(♂)の接合装置を認識する抗体も作製し、接合装置を構築する蛋白質とその遺伝子を探索している。以下の2つの方法により、雄(♂)あるいは雌(♀)に特異的な遺伝子、例えば、GCS1を確実に同定している。1) 免疫サブトラクション抗体を用いた免疫沈降法による抗原蛋白質の濃縮とアミノ酸配列決定2) 免疫沈降した抗原蛋白質をMS解析するとともにESTライブラリーを参照に遺伝子を同定する。免疫サブトラクション法にはヒラアオノリ雌雄の配偶子の安定供給が必要で、研究分担者の筑波大(宮村)グループと長崎大(桑野)グループと協力している。予備実験から免疫サブトラクション法は雌雄の配偶子が別々に単離できれば可能なので、藻類の培養や採集に長けた筑波大グループと長崎大グループと共同で、培養可能な他の緑藻や褐藻はもちろん、培養が難しいものでも配偶体から放出された配偶子を野外採集し使うことなどを検討している。
遺伝子発現パターン解析とMSによるプロテオーム解析(EST/MSサブトラクション法)によって、雌雄配偶子に特異的遺伝子や蛋白質の同定は勿論のこと、免疫サブトラクション法で得られた抗体で標識される蛋白質の同定、雌雄のプロレオーム結果の解析から発現量ゼロ遺伝子の存在やGCS1遺伝子の有無などが問題になっている。これらのを解決には、ESTの拡充は勿論のこと、「ゲノム支援」で解読提供されるゲノム情報も期待される。ヒラアオノリは配偶子放出を同調できる。配偶子誘導した雌雄それぞれの配偶体で、配偶子形成に従って眼点と接合装置が形成される過程をFE-SEMを用いて経時的に観察することで、細胞表層から見た雌雄の非対称性形成のダイナミクスを明らかにする。また、免疫サブトラクション法あるいは新たに調製した特異抗体を用いて(FE-SEMの免疫電顕)、雌雄逆向きに配向した接合装置に蛋白質がどうやって運ばれていくのかを明らかにする。雌(♀)の配偶子では1dと2sが作る1d/2s面に眼点と接合装置がある。一方、雄(♂)の1d/2s面には眼点しかなく、接合装置は背面の1s/2d面にある。雌(♀)の接合装置は1dの根元近傍、雄(♂)の接合装置は2dの根元近傍にあるともいえる。眼点顆粒は光顕でも電顕容易に識別できるが、鞭毛根を識別するには連続切片法によるTEM観察が必要となる。免疫電顕・連続切片法・三次元立体構築により、雌雄の非対称性形成の三次元的な配向のダイナミクスと雌雄の接合装置自身の微細構造の非対称性を明らかにしたい。
研究の進捗が順調であったことに加え、文部科学省科学研究費新学術領域研究・生命科学系3分野支援活動「ゲノム支援」を受けることができゲノム解析やトランスクリプトーム解析の負担が軽減されたことによる。また、本年度は海水温の不調などで海産藻類の生育が芳しくなく十分採集でなかったので、旅費等を次年度に繰り越すことにした。ゲノム解析やトランスクリプトーム解析の負担が軽減された分、プロテオーム解析や抗体の作製により重点を移して使用する。海水温の変動や日照などに十分注意して、昨年度採集できなかった分を補充したい。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 5件) 備考 (3件)
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