研究課題/領域番号 |
25291070
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河野 重行 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (70161338)
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研究分担者 |
宮村 新一 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (00192766)
桑野 和可 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 准教授 (60301363)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 性染色体 / 微生物 / 藻類形態 / 雌雄性 / サブトラクション / アオノリ / 同形配偶子 / 非対称性 |
研究実績の概要 |
藻類には、動物などとは異なり、同形から異形、異形から卵生殖へといった進化の中間体が生存している。アオサ藻綱に属するヒラアオノリは雌雄配偶子が同形から異形へわずかに進化した種で、株によっては雌雄の大きさが逆転していたりもする。大きさという変動しやすい量的形質から、左右の非対称性という空間的で一義的な形質に目を転ずると、眼点と接合装置の位置が雌雄で逆転していて、雌雄の配偶子のサイズに差が生じる前から雌雄に左右の非対称性があることがわかってきている。この非対称性を可能にした雌雄の細胞表層の構造の相違と遺伝子に注目して、同形配偶子にあってなお異なる雌雄の差異を明らかにし、雌雄の配偶子サイズに差が生じる以前から存在する雌雄の非対称性がどうやって生じ、如何にして認識されるかを明らかにしたい。 本研究課題では、アオサ藻綱のなかでも配偶子が同形から異形への進化の途上にあるアオノリの仲間を用いて、雌雄の個体サイズの差が生じる前から存在する雌雄の非対称性がどうやって生じ、お互いがそれをどう認識するのかを、雌雄配偶子の「免疫サブトラクション法」とゲノム支援で得られるゲノムやトランスクリプトーム(mRNA/RNAseq)情報を使って明らかにしたい。雌雄それぞれの接合装置に特異的な蛋白質に対する抗体を作成し、その遺伝子を同定するとともに、それらが接合装置として雌雄で異なった配位で細胞表面に提示されるダイナミズムを電界放射型走査電顕(FE-SEM)や免疫電顕、連続切片法による透過電顕(TEM)で明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アオサ藻綱のなかでも同形から異形への進化の途上にあるヒラアオノリを用いて、配偶子に大小が生じる前の雌雄性とは何か? を明らかにしたい。雌雄が大小の前にすでにあったとすると、コンピューターシミュレーションなどとは違って、雌は大きくなり雄は小さくなることが進化的に運命づけられていたことになる。現在までの達成度としては、(1)「免疫サブトラクション法」で雌雄の表層あるいはそれぞれの接合装置に特異的に反応する抗体を作成し、(2)「EST/MS サブトラクション法」でそれらの遺伝子を同定するとともに、(3)「FE-SEM(電界放射型走査電顕)」、「免疫電顕」、「連続切片法によるTEM(透過電顕)」でそれらが接合装置として雌雄で異なった配位で細胞表層に提示されるダイナミズムを調査している。また、雌雄性に関連する因子の中から真核生物の接合装置に局在するGCS1、眼点の構成物タンパク質であるChR1、EYE3に着目し、それらの特異抗体を作成し、配偶子形成過程における発現と局在を解析している。 本年度も「ゲノム支援」で雌雄配偶体のゲノムシーケンスとトランスクリプトームを実施し、雄で114Mb、 雌で117Mbと推定されたゲノム領域のデータが得られた。最長のスカフォールドは雄で10.6Mb、雌で15.4Mbで、同じ緑色藻類であるクラミドモナスやボルボックスと比べても遜色のない精度のゲノム情報が得られている。さらに雌雄で相同領域に挟まれた性特異的なゲノム領域が同定され、雄特異的領域は最大で約1.2Mb、雌特異的領域は最大で約1.5Mbということを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ヒラアオノリ胞子体に加え、近縁な別種スジアオノリの有性株と2種類の無性株でRNA-Seqを実施し、アオサ藻綱に保存された雌雄の決定機構と、動植物を問わず広い系統で見られる有性生殖から無性生殖への転換にまで視野を広げ、生物における非対称性と性の収斂進化を総合的に明らかにしたい。ヒラアオノリでは雌雄ゲノムに特異的な性染色体領域が存在するこの雌雄で非対称性のあるゲノム領域では雌雄に特異的な遺伝子の他に、雌型、雄型にそれぞれ分化したホモログ(ガメトログ)が複数存在していることがわかってきている。複数のガメトログを、スジアオノリを始めとする他アオノリ類の雌雄株から単離し、系統樹を構築したところ雌型と雄型のクレードに2分される。少なくともアオサ属が分岐したときには、相同組換えが抑制された性染色体領域が存在したことを実証したい。 昨年度まで解析を進めてきたヒラアオノリゲノムに加え、近縁なスジアオノリとの比較ゲノムおよび比較トランスクリプトームにより多細胞性植物における雌雄性の決定に関わる遺伝子や雌雄の非対称性を生み出す分子機構の解明を進める。さらに、スジアオノリでは有性株の他に、それぞれ「性」を失った配偶体世代と考えられる2本鞭毛の遊走細胞を持つ無性個体群と、胞子体世代が減数分裂を起こせなくなった結果生じたと思われる4本鞭毛の遊走細胞をもつ無性個体群が存在している。これまでの研究から両無性個体は2N世代であること、また上述のガメトログの遺伝子型を調べたところ、雌雄の遺伝子型を共有しており、雌雄ゲノムが揃った状態であることもわかっている。この生殖様式の多様性に「免疫サブトラクション法」を加え、雌雄の非対称性形成のダイナミクスと雌雄性を与える遺伝子を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も分担者(筑波大学・宮村)が担当した海域は海水温の不調などで海産藻類の生育が芳しくなく採集や調査が十分できずに、旅費等を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
新たにスジアオノリのゲノム解読を開始した。本年度も日照や海水温に十分注意して採集するが、海産藻類の不調が続くようなら、本年度はスジアオノリのゲノム解読に集中したい。
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