研究課題/領域番号 |
25291081
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, その他の研究科, 教授 (20222010)
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研究分担者 |
早川 敏之 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80418681)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境適応 / ハプロタイプ / 疾病関連遺伝子 / リスク型・非リスク型 / 祖先型 / 霊長類 |
研究実績の概要 |
ヒトのゲノムには、チンパンジーと分岐して以来およそ600万年間のヒト特異的な環境応答のプロセスが刻まれている。近年のゲノム配列の解析からヒトの疾患関連遺伝子には、リスク型と非リスク型の多型があることがわかってきた。また、ヒト以外の霊長類のゲノムとの比較から生活習慣病や精神障害などのヒトを取り巻く環境に起因する疾患に関連する遺伝子の多くではリスク型がデフォルトであることも明らかになった。 リスク型がデフォルトとなり、非リスク型が新たに生まれた時期とその地域を推定し、これらのイベントとヒト特異的な生息環境への適応との関連を探る。 本年度の研究は、統合失調症との関連が指摘されているSTX8遺伝子座の解析を中心に遂行した。 ヒト集団ではSTX8遺伝子座の上流配列(プロモーター領域)にあるSNPにリスク型と非リスク型があり、これらの間には、プロモータ活性の違いがある。一方、他の霊長類はリスク型SNPをもち、リスク型が祖先型であることが明らかになった。そこで、現有のヒト集団63個体と1000ゲノムのデータから、リスク型、非リスク型のSNPの各民族集団での頻度分布を調べたところ、非リスク型のSNP頻度は、アジア、特に東アジアの集団で高いことが明らかとなった。さらに、ヒト集団63個体から81染色体でのプロモータ領域を含む10kbの塩基配列を決定した。その結果、96のサイトでSNP多型、一箇所の挿入欠失サイトがあり、単一の染色体でのみ変異のあった39サイトと挿入欠失のサイトを除く54サイト29ハプロタイプで解析を進めた。この領域全体では、特に3'末に組み換えがあり、その領域を除いき、分岐年代の推定を行ったところ、現生人類集団のSTX8遺伝子の共通祖先はおよそ50万年まえに誕生しており、更にリスク型とヒリスク型の共通祖先の誕生は40万年ほど前と推定された。この非リスク型ハプロタイプへの正の自然選択の可能性を示唆する結果も得てている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から引き続き行ったSTX8遺伝子座の10kbの塩基配列決定実験は順調に進行し、81染色体の塩基配列決定を完了した。これらの配列の集団遺伝学的解析を行い、同時に、1000人ゲノムのデータを用いた解析も進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
STX8を疾病に関する遺伝子解析のモデルケールとして、さらに、糖尿病や高脂血症等の生活習慣病に関係する代謝疾病関連遺伝子についての解析を進める。また精神疾患に関しては、統合失調症やアルコール依存症に関連する遺伝子座での非リスク型の頻度に民族間での偏りが見られるので、これらの遺伝子座についても同様に解析を進める。 解析を進めるにあたり、まずSTX8について実際に研究室で塩基配列を決定したサンプルでの各ハプロタイプの頻度や分岐年代推定と1000人ゲノデータを用いて推定されるこれらの値との整合性を調べる。整合性が保たれていることを確認した上で、27年度の解析は1000人ゲノムデータを中心に行い、必要に応じて塩基配列決定を行っていく。 また、解析に際して、STX8の解析時と同様にrecombinant の検出を行い、コアハプロタイプの同定をおこなう。この時、大量データを用いてのrecombinationの検出方法、コアハプロタイプの同定方法についても検討する。さらに、リスク型・非リスク型の分岐時間、非リスク型の拡散過程、非リスク型ハプロタイプへの正の自然選択の可能性について精査していく。
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