研究課題/領域番号 |
25293077
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小根山 千歳 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (90373208)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Src / microRNA / がん |
研究概要 |
今年度は、microRNAとがん形質発現に重要なシグナルネットワークとの関わりを、Srcシグナル制御機構を軸に解明するため、がん形質と相関するmicroRNA について標的分子を解明しシグナル経路について詳細な解析を行った。そのため、1)がん形質と相関するmicroRNAの役割の解析及び、2)Src自身のmicroRNAによる発現制御の解析を行った。その結果、1)については、Src活性化に伴い発現低下が見られ、再導入によってがん形質を抑制するmiR-424/503クラスターの標的遺伝子を探索し、mTOR複合体2 (mTORC2)の構成因子であるRictorであることを明らかとした。このmiRNAクラスターは、Src活性の高い大腸がんや前立腺がんの細胞株及び組織において発現が低下し、標的分子Rictorの発現と逆相関することを見出した。さらにこれらのがん細胞株を用いて、miR-424/503クラスターの機能を詳細に解析したところ、miR-424/503クラスターにより発現制御されるRictorの発現亢進により、mTORC2が活性化され腫瘍形成や浸潤能の亢進に寄与することを明らかとした。さらに2)については、Src自身のmicroRNAによる発現制御の可能性を考え、Srcの3’UTR配列を標的とし得るmicroRNAをスクリーニングし、miR-Xを同定した。このmiRNAはSrcの発現の高い大腸がん細胞株において発現が低下し、これらがん細胞に導入すると、腫瘍形成や浸潤能などがん形質が抑制されることを見出した。これらにより、microRNAによるSrcシグナルの亢進とそれに伴う下流microRNAの発現変動及び標的因子の発現調節、その結果としてのがん形質発現といった新たなシグナルネットワークが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでの研究を発展させ、Srcがん形質発現に関与するmicroRNAとその機構をより包括的かつ詳細に解明することを目標としている。そのため、期間内にSrc によるがん形質と相関するmicroRNA について標的分子を解明しシグナル経路を明らかにすること、さらに細胞内シグナルに加え、細胞間コミュニケーションの解析へと展開させるべく、新たにmicroRNA含有エクソソームの研究に取り組むことを計画している。3年計画の1年目である平成25年度は、microRNAによるSrcシグナルの亢進とそれに伴う下流microRNAの発現変動及び標的因子の発現調節とその結果としてのがん形質発現機構の解析を行った。その結果、SrcシグナルがmiRNAを介してmTORC2シグナルとつながっていること、それらが実際のがんにおいても機能していることを見出した。さらに、Src自身の発現がmiRNAにより制御され、Srcによるがん形質が制御されることを見出した。このように今年度の結果を次年度行う予定のSrcシグナルによるmicroRNAの発現制御機構やmiRNAとSrcシグナルの時系列解析につなげることができたことから、概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度得られた結果をもとに、3) microRNAとSrcシグナルの時系列解析及び4)SrcシグナルによるmicroRNAの発現制御機構の解析に取り組む。具体的に3)については、Srcシグナルの誘導発現系を用いて、がん化過程において発現の変動するmicroRNAを経時的にマイクロアレイで追跡する。現在予備的検討で、誘導後のSrc活性化は12時間まで上昇し定常状態に達するが、その過程でいくつかのmicroRNAが異なるタイミングの発現変動を示すことを見出している。ここでは、より詳細にアレイ解析による網羅的解析と、リアルタイムPCRによる定量的解析に加え、microRNAの標的遺伝子の発現変動も合わせて解析する。発現変動の時系列解析や染色体上の位置(同時に制御を受けるmicroRNAのクラスター解析)からSrcシグナル依存的なmicroRNAの発現制御ネットワークを明らかにしたい。4)については、Srcシグナルに依存するどのような経路でmicroRNAの発現が変化しているのか解析する。具体的には、Srcシグナル下流で重要なPI3K,MAPK経路などの阻害剤等でmiRNAの発現変化が回復するか調べ、重要なシグナル経路を限定していく。さらにエピジェネティックな機構を考慮し、Srcでがん化した細胞をDNAメチル化阻害剤やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤で処理してmicroRNAの発現を解析する。さらに、転写開始点の同定とプロモーター領域のメチル化及びヒストン修飾を詳細に解析したい。さらに、見出されたmicroRNAの発現制御因子の作用を、ノックダウンや遺伝子導入によって確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、自身で作製したモデル細胞を用いた解析がメインとなっていたため、補助金での使用で十分であったが、来年度は多種類のヒト培養細胞を用いた解析及び生体での役割を明らかとするためのマウスの作製及び発癌実験などに経費が必要となるため、次年度に使用することとした。 恒常的経費として、細胞培養、遺伝子工学、生化学実験用の試薬や器具類及び実験動物などの消耗品や各種受託解析の費用として支出する。次年度では多種類のヒト培養細胞を用いた解析を行うため、細胞培養試薬(特に牛胎児血清)及び造腫瘍能の解析のためのマウスなど実験動物に経費を用いる。またこれまでの研究によりがん形質制御に重要と考えられるmiRNAの生理的機能や生体におけるがん形質制御機能を明らかとするために作製しているノックアウトマウスの動物施設利用料に経費を用いる。さらに、DNA マイクロアレイや2次元電気泳動で変化の見られた蛋白質同定を目的としたマススペクトル受託解析のための経費として使用する。
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