研究課題/領域番号 |
25293285
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大塚 隆生 九州大学, 大学病院, 助教 (20372766)
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研究分担者 |
田中 雅夫 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30163570)
水元 一博 九州大学, 大学病院, 准教授 (90253418)
高畑 俊一 九州大学, 大学病院, 講師 (50437779)
大内田 研宙 九州大学, 学内共同利用施設等, 講師 (20452708)
坂井 寛 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 共同研究員 (80611665)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | IPMN / 膵癌 / 併存膵癌 / GNAS / 早期診断 |
研究概要 |
IPMN併存膵癌20例(26病変)を含む179例のIPMN切除標本を用いて、MUC染色による組織亜型分類とGNAS変異に注目した分子生物学的解析を行ったところ、併存膵癌の90%はMUC2陰性の胃型IPMNに合併していた。また6例でIPMN(胃型5例、腸型1例)と併存膵癌のGNAS変異を調べたところ、併存膵癌6病変と胃型IPMN5病変にGNAS変異は認めず、腸型IPMNの1例のみにGNAS変異を認めた(Ann Surg 2013)。また併存膵癌は分枝型IPMNに合併することが圧倒的に多いと報告されていたが、3例の主膵管型IPMNに併存膵癌を認め、これらはいずれもMUC2陰性・胃型で、GNAS変異を認めなかった(Ann Surg 2014)。すなわちMUC2陰性・胃型でGNAS変異を認めないIPMNが分枝型、主膵管型を問わず併存膵癌合併の高危険群の可能性が高いと考えられた。さらに症例数を110例に増やして、併存膵癌を合併しないIPMNとのGNAS変異の頻度について比較したところ、併存膵癌はGNAS野生型のIPMNに高率に合併することが分かった。多変量解析でも胃型、GNAS野生型のIPMNに併存膵癌が有意に合併することから、この2つの因子も持つIPMNが併存膵癌発生の危険因子であるといえる(submitted data)。胃型、GNAS野生型を術前に診断し、膵癌発生高危険群に対して重点的に検査を行えば膵癌を早期に診断できる可能性がある。術前にERCP下に採取した膵液サンプルと切除IPMNのGNAS変異の一致率を調べたが、一致率は50%未満であった。従って膵液サンプルでの膵癌合併予測は困難であると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度に行う予定の実験は1 .同一膵内に発生したIPMNと併存膵癌の分子生物学的マーカー解析、2. 膵癌非合併IPMN、IPMN非合併膵癌の分子生物学的マーカー解析、3. 網羅的遺伝子解析(マクロアレイ)による併存膵癌の発癌過程の解明の3項目であった。1と2は上記の研究実績の概要部分で述べた通り一定の成果が得られた。その流れから3.は行わずに、平成26年度以降に予定していた膵液中の分子生物学的マーカー解析と切除標本の対比を先に行うこととした。現在、その解析途中であり、研究の進行が若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
GNAS変異の検索が膵液サンプルで十分に行えない可能性が高いため、十二指腸液サンプルで代用することを検討する。米国Johns Hopkins大学では十二指腸液内のGNAS変異を検出する方法を開発しており、それに準じた方法を用いて解析を行う。また膵液による解析においてもMUC2発現の有無の解析は可能であると思われるため、GNAS変異とともに併存膵癌発生高危険群のもう一つの因子であるMUC2陰性・胃型の検出において膵液採取の意義を見出せるように研究を進める。具体的には膵液中RNAを抽出してRT-PCR法でMUC2 mRNAの発現解析を行う。 また同一膵内のIPMNと併存膵癌の網羅的遺伝子発現解析(マイクロアレイ)を行うことで、併存膵癌の発癌過程の解明を目指す。マーカーとしての安定性やアレイに必要なサンプル抽出量の問題から、凍結切片よりtotal RNAを抽出し、mRNAの網羅的発現解析を行う。また比較対象として正常膵管、膵癌非合併IPMN、IPMN非合併膵癌の網羅的解析も併せて行い、候補遺伝子マーカーを絞り込んでいく。候補マーカーのvalidationは、免疫染色法あるいはWestern blot法による蛋白の発現解析により行う。さらにどの段階で遺伝子異常が併存膵癌とIPMNの違いを惹き起こすかを調べるために、同一膵内の正常膵管、PanIN-I~IIIの多段階病変を病理組織学的に検索して、validationで発現に違いの見られたマーカーの発現解析を行う。この研究過程の中で膵癌発症高危険群の同定に有用な新たな診断マーカーの候補が見つかることも期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度以降に予定していた膵液中の分子生物学的マーカー解析と切除標本の対比を先に行っており、現在その解析途中であり、研究の進行が若干遅れているため。 研究の遂行に必要な主要装置(共焦点レーザー顕微鏡、リアルタイムPCR、蛍光顕微鏡、遺伝子導入装置、バイオアナライザー、FACS機器など)は既に研究室内に設置されている。この他の機器(透過型電子顕微鏡、DNAシークエンサーなど)については学内の研究支援センターにおいて利用可能であり、研究の遂行に支障はない。このため研究経費において新たな設備備品の購入は不要である。アレイ用のチップ(10万×9チップ=90万)、microRNA網羅的定量キット(70万)、FFPE由来RNA抽出キット(50万)、microRNA抽出キット(80万)、microRNA定量リアルタイムRT-PCR関連試薬(80万)、one step qRT-PCR試薬(80万)、MSP関連試薬(20万)などの消耗品が経費となる。これまでの状況から判断して、欧米誌への学術論文投稿・掲載料を計上している。
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