研究課題/領域番号 |
25300046
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中川 敏 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60175487)
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研究分担者 |
奥田 若菜 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (10547904)
上田 達 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (60557338)
福武 慎太郎 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (80439330)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国語 / ナショナリズム / 言語ゲーム |
研究実績の概要 |
6月に国内研究会を行ない、現地調査の全体のテーマと各自のテーマを決定した。「言語と国家」がこのプロジェクトのテーマであるが、2つのレベルから見ていく必要があることを確認した。政府見解に典型的にあらわれるイデオロギーとしての(あるいはそのようなものとして語られる)「上からの言語と国家」と、じっさいの(語られない)「下からの国家と言語」である。今回は奥田を中心にして教育・ポルトガル語に焦点をあてて「上からの国家と言語」像を、上田を中心として都市集住地区での「下からの国家と言語」像を見ていった。 8月から9月にかけて、東ティモール共和国において現地調査を行なった。奥田を中心に首都ディリにおいてポルトガル語教育を焦点にした調査をした。教育省、INFORDEPE(政府直轄のポルトガル語教育機関)そして UNTL(東ティモール国立大学)のポルトガル語学科等を重点的に調査した。上田、中川が合流した後、第2の都市バウカウに移動し、(初等教育を行なっている)複数の修道会、および ICFP (オーストラリアからの援助による教員養成大学)などで調査をした。バウカウから首都ディリに戻り、(ナショナリズムが集中的に現れる)集住地域を中心に調査をした。 2015年1月の国内研究会では各自の調査報告をもとに議論をし、各研究者の独自性を維持しながら、グループとしての方向性を確認することができた。 作成途中のウェブ上のサイト(現在は未公開)を充実させる作業もつづけている。その項目は(1000近くの文献の他に)300 を越えようとしている。サイトには各自の収集した紙データ(教育省の発行するパンフレット、マスメディアなど)を PDF 化して掲載しており、データの共有に勤めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度からは、ポルトガル話者である奥田の参加によりプロジェクトは大きく進展した。 教育省でのインタビュー、そして教育省でのパンフレット等からの情報収集に加えて、今回は、さらに、ポルトガルおよびブラジルから派遣されている言語関連の職員、オーストラリアの修道会から派遣されている教員養成大学の学長などの外国人からの情報も積極的に取り入れた。それぞれの持っている「言語と国家」観は微妙にずれていることが分かってきた。 「上からの国家と言語」の中で焦点をあてられるポルトガル語とテトゥン語の重要性はもちろん、問わず語りに語られる(国家によって否定あるいは無視されている)言語、すなわちインドネシア語と英語の重要性が明らかになってきた。 日常実践の中の「下からの国家と言語」を調べるために、ルーチンとしての村落部調査の他に、都市集住地域(ベボノック、カンポン・アロール)を集中的に調べた。2006年に起きた騒乱は、2002年に独立したばかりの国家に分裂の危機をもたらした。そして、ベボノックはその騒乱の一つの中心的舞台であった。今回の調査において、その騒乱をじっさいに体験した人々とのインタビューを始めることに成功した。騒乱の一週間ほど前には、集住地区を来たるべき騒乱の噂が流れたという。噂から始まり、じっさいの騒乱、そしてその後という、集住地区における国家の語りの変遷がじょじょに見えてきている。 初年度から続くテーマである村落調査(福武)、キリスト教の調査(中川)も順調である。ちなみに、教員養成学校は修道会のものであり、また集住地区での調査は、そこで活動をつづける修道会の手引きによって可能になったことをつけくわえておく。
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今後の研究の推進方策 |
奥田を中心にしたポルトガル語の普及というテーマ、上田を中心にした都市集住地区における国家の語りというテーマ、福武による村落部の調査、そして中川によるキリスト教と国家の関係の四つの柱の有機的な結合を深めることがこれ以降のプロジェクトの第一の課題となる。二回予定されている国内研究会を充実させるとともに、調査期間をなるべくオーバーラップさせることで、調査の中でのメンバー同士の議論も深めていきたい。 2014年度、わたしたちは「国家と言語」というテーマの垂直的な展開(「上からと下からの国家と言語」)を追っていた。2015年度以降では水平的な展開を加えたい。具体的には、あたらしいテーマとして「辺境」を考えているのである。(1) まわりをインドネシアに囲まれる飛び地であるオエクシ(アンベノ)、(2) 首都ディリと政治的に対立している地域として(また国語であるテトゥン語の通じない地域として)しばしば語られる東部(ファタルクなど)、そして(3) オエクシと同じく経済特区である(そして、ほとんどがカトリックである東ティモールにおいて例外的にプロテスタントが多い地域である)アタウロ島が、現在、東ティモール共和国の「辺境」として人びとが(すくなくともディリの人びとが)考えている地域である。2015年度は (1) のオエクシでの調査を予定している。当プロジェクトの研究員として予定している森田良成は、すでにオエクシにおいて数度の調査を行なっている。森田を中心としたオエクシでの調査は、プロジェクトに「辺境」からの「言語と国家」観を加えることになるだろう。 プロジェクトがさらに発展することと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
中川が2014年の後半に、オーストラリアへの渡航(国立図書館での資料収集と、オーストラリア国立大学でのフォックス教授およびマクウィリアム博士との会談のため)を計画していた。しかし、中川が10月から11月にかけて長期入院をしたため、不可能になった。
奥田が1才児の育児のために、計画していた期間の長期の調査が不可能となった。
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次年度使用額の使用計画 |
奥田の長期調査はおそらくまだ不可能であろう。しかし、短期調査を複数回(ポルトガル、ブラジルでの資料の収集を含む)は可能であるので、そのように計画を変更したい。
また、各メンバーの調査期間を当初の予定より延長したい。調査期間の延長はそれだけの成果を得られることを意味するはずである。今年度中のオーストラリア渡航は、以上の変更した上で、可能であれば、行いたい。
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