研究課題/領域番号 |
25330324
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊賀崎 伴彦 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70315282)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 眠気 / 心拍 / 呼吸 / 日本語版カロリンスカ眠気尺度 / 平均心拍間隔 / 心拍変動の高周波成分 / 呼吸間隔のばらつき / 重回帰分析 |
研究概要 |
本研究課題では、心理学的(主観的)評価である「眠気」を生体信号の定量的解析による生理学的(客観的)評価と結び付けることが可能であるかを検討する。平成25年度は、生体信号のうち心拍と呼吸を計測・解析し、眠気との関連性を調査した。 普通運転免許を所持する22~24歳の健常男性8名を被験者とし、13~15時の間にドライビングシミュレータに搭乗してもらい、障害物のない全長2.4kmの楕円形のサーキットを100km/hで50分間継続運転するという実験を4回課した。このとき、被験者の心電図と腹腔呼吸を測定して心拍間隔と呼吸間隔を計算するとともに、顔表情を録画した。実験終了後、録画した顔表情を再生し、被験者にそれを見てもらいながら30秒ごとに9段階で評価する眠気アンケート(日本語版カロリンスカ眠気尺度=KSS-J。1=非常にはっきり目覚めている、3=目覚めている、5=どちらでもない、7=眠い、9=とても眠い(眠気と戦っている))に回答してもらった。その結果、KSS-Jが高値を示すほど平均心拍間隔(MRRI)が低値となること、心拍変動の高周波成分(HF=副交感神経の活動を反映)が高値となること、呼吸間隔のばらつき(SDBBなど)も高値となることが観察された。 そこで、重回帰分析によりMRRI、HF、SDBBを含む25個の解析パラメータからKSS-Jを推定することを試みたところ、0.79±0.08の重相関係数が得られた。さらに、KSS-Jが8以上を「強い眠気あり」、8未満を「強い眠気なし」として、重回帰分析により前述の解析パラメータから強い眠気の有無を推定することを試みたところ、85±11%の推定精度が得られた。 以上のことから、「眠気」と心拍・呼吸の間には関連性があることが確認されるとともに、心拍・呼吸の計測・解析という客観的評価と「眠気」という主観的評価を結び付けられることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記述したように、ドライビングシミュレータ運転中の眠気アンケート(KSS-J)と、そのときの心拍間隔および呼吸間隔の測定および計算によって導出した25の解析パラメータから推定したKSS-Jとの間には、0.79±0.08の高い重相関係数が得られている。また、KSS-Jが8以上か8未満かを同じく25個の解析パラメータから推定した場合も、85±11%の高い推定精度が得られている。また、KSS-Jと各解析パラメータとの関係もいくつか明らかになっており、研究目的の第2項に掲げた「心拍変動、呼吸変動だけでも「眠気」を評価可能であること」に近づいているものと考えられる。 また、研究実績の概要には記述していないが、生体信号は心拍と呼吸だけでなく、脳波や眼電図も計測・解析している。このうち眼電図は心拍・呼吸と同程度進捗しており、導出した9個の解析パラメータから重回帰分析で推定したKSS-Jとの二乗平均平方根誤差は1.29±0.48と小さく、KSS-Jが8以上か8未満かを同じく9個の解析パラメータから重回帰分析で推定した場合も、86±19%の高い推定精度が得られている。これから、研究目的の第1項に掲げた「「眠気」という感性量をポリグラフにより、客観的、定量的に評価可能であること」にも近づいているものと思われる。 以上のことから、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度に記述したように、平成25年度は心拍変動、呼吸変動による眠気評価を進めたが、推定KSS-Jとの重相関係数0.79±0.08、強い眠気の推定精度85±11%という結果にはまだ改善の余地が多く残されている。これは眼電図による眠気評価についても同様である。その改善のためには、さらに被験者や被験者1名あたりの回数を増やして実験を継続し、計測・解析の信頼性を高めることが重要であると考えている。また、平成25年度は眠気の推定に重回帰分析を利用したが、研究計画では人工ニューラルネットワーク(ANN)を利用すると記述しており、他にもサポートベクタマシン(SVM)のような分類器も視野に入れた眠気の推定を行うことで精度を高めることも課題であると思っている。さらに、平成25年度は脳波の計測は行ったものの解析が心拍・呼吸・眼電図ほど十分でないため、脳波と眠気の関連性についてもさらに検討を進めたい。
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