本研究課題では、心理学的(主観的)評価である「眠気」を生体信号の定量的解析による生理学的(客観的)評価と結び付けることが可能であるかを検討する。平成27年度は、とくに呼吸の計測・解析を深化させた。 普通運転免許を所持する22~23歳の健常男性6名を新たに被験者とし、13~15時の間にドライビングシミュレータに搭乗してもらい、障害物のない全長2.4kmの楕円形のサーキットを100km/hで50分間継続運転するという実験を4回課した。このとき、被験者の腹腔呼吸を測定するとともに、顔表情を録画した。実験終了後、録画した顔表情を再生し、被験者にそれを見てもらいながら30秒ごとに9段階で評価する眠気アンケート(日本語版カロリンスカ眠気尺度=KSS-J)に回答してもらった。解析は、「呼気時間(ED)」「吸気時間(ID)」「振幅(PA)」「driving(PAをIDで除したもの)」「timing(IDをEDとIDの和で除したもの)」それぞれの平均・標準偏差(10パラメータ)と「異常呼吸(UR)」の発生回数と時間(2パラメータ)を抽出するように改めた。その結果、KSS-Jとの相関が高いパラメータは被験者ごとにも実験ごとにも異なっていたが、ある被験者ではEDの標準偏差(r=0.83)が、別のある被験者ではdrivingの平均(r=-0.79)がKSS-Jとの相関が高く、眠気と密接に関係していることが観察された。 そこで、多項ロジスティック回帰分析により前述の12個の解析パラメータから、「強い眠気あり(KSS-J=8~9)」、「弱い眠気あり(KSS-=6~7)」「眠気なし(KSS-J=1~5)」の3段階の眠気を推定することを試みた。その結果、平均62%、最高71%の推定精度が得られた。 以上のことから、呼吸は眠気の有無だけでなく眠気の程度にも関連性があることが確認されるとともに、平成26年度までの実績とあわせると、心拍・呼吸の計測・解析という客観的評価と「眠気」という主観的評価を結び付けられることが重ねて示唆された。
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