研究概要 |
感性時系列解析の予測モデルとして「重み付き加法形モデル」に注目し,数学的で人工的な適用条件を簡潔で分かり易い形に書き換えることを検討した.動画像を用いた都市景観評価では,評価者は建物の形態や色彩の統一性を重視する群(統一重視群)と重視しない群(統一非重視群)に分かれ,前者はシーン間の相互作用を重視するが後者はあまり重視しないという評価方法の違いが両群に好まれる景観の提案を困難にする主な原因であった.そこで,両群に好まれる景観を提案するためにはシーン間の相互作用を小さくすれば良く「各街区でスカイラインに適度の変化を与えることが有効」という仮説を設けその検証を行った.その結果,次の知見が得られた. 1. 予測関数: 以下,a, b, cを3つのシーンとする.時系列データの表記において,(ab)cはシーンa, b, cが順に第1,2,3時点で現れることを意味し,a(bc)はシーンa, bが第1時点で,シーンcが第2時点で現れることを意味する.この規約のもとに,重み付き加法形モデル (i.e., U(xy) = wU(x) + U(y), w > 0は定数)の適用条件は以下の単純な無差別関係で表された: a(bc)~a(cb), (ab)e~(ae)(be) なお,(ab)eおよびaeは連続シーンabと単独シーンaを1時点早めることを意味する. 2. 動画像評価: 屋根面が作り出すスカイラインを街区内では一定として街区間でのみ変化を与えると,統一重視群と統一非重視群の両方に対して好ましい景観になることが分かった.ただし,両群ともに高評価になった原因はシーン間に緩やかな相乗効果が現れたことであり,相互作用を減らすというよりも適度に与えることが有効であるということが判明した.
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今後の研究の推進方策 |
時系列解析手法の予測エンジンとなる“一般化”重み付き加法モデルの適用条件を検討するとともに都市景観の動画像コンテンツを作成する. 1. 予測関数: 最も単純な相互作用モデルである一般化重み付き加法関数を対象とする. U(xy) = w(y)U(x) + U(y), ここで,重みwは実数値関数であり,右辺第1項は第1時点と第2時点シーン間の相互作用を意味する.重み付き加法モデルは左単位元e (i.e., ae = ea = a for all a ∈ G) を持つ順序代数系G(順序と演算を持つシステム)に対して,U(xe) = wU(x)なる関係を用いて構築された.従って,左単位元がGの各要素に依存する状況を作り出せば一般化重み付き加法モデルが導出できる.e(y)をyに依存する“疑似的な”左単位元 (e(y)y = y; yのみ成立) とするとU(xe(y)) = w(y)U(x) となる.今年度は疑似単位元全体の集合が順序代数系となるために必要な性質を検討する.左単位元の類推より,べき等性と平均演算子的な性質は必要になると予想される. 2. 動画像評価: 街区内でもスカイラインに変化を与えた上で,統一性重視群と統一性非重視群に好まれる都市景観の提案を行う.このとき,統一性重視群の評価特性(変化の中に統一性を見出そうとする)から,街区内の変化をかなり微細なものに留めるべきであると考えられる.本研究では微細性の程度を測るために,スカイラインの変化に対する尺度を用意する.既往研究に倣い,スカイラインの形状を波形と見なしてパワースペクトルを算出し,両対数軸におけるパワースペクトルの回帰直線の切片,傾き,高周波数域の残差を尺度パラメータとする.これらの値と相互作用の大きさの関係を調べることにより,統一性重視群と統一性非重視群に対して適切なスカイラインの変化の程度の基本指針を導き出す.
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